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パルス磁場NMR測定により強磁場中で実現する磁気構造を解明

北海道大学の井原慶彦講師、東京大学物性研究所の小濱芳允准教授、金道浩一教授らのグループは福井大学の加藤康之准教授、東京大学の求幸年教授、木村剛教授、大阪公立大学の木村健太准教授と共同でマルチフェロイック物質において強磁場中で実現する磁気構造を明らかにしました。

マルチフェロイック物質が示す電気-磁気交差応答は、高集積メモリやスピントロニクスデバイスへの応用が期待される物理現象です。本研究で注目した正四角台塔型反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4は低磁場で磁気四極子型の局所磁気構造に起因する電気―磁気交差応答を示します。これまでに、強磁場中で現れる磁気構造についても詳細に調べられてきましたが、磁場を特定の方向(結晶のc軸方向)に印加した場合に、磁化が完全に飽和する直前で現れる磁気構造だけは明らかになっていませんでした。

本研究では、パルス強磁場を用いて国内最高磁場となる32テスラまでのNMR測定を行い、観測されたNMRスペクトルの解析から、謎だった強磁場誘起磁気状態の磁気構造を解明することに成功しました(図1)。

fig1
図1 (a)パルス強磁場を用いて32.2テスラで測定したNMRスペクトル(上)と、理論モデルから予想されるNMRスペクトル(下)。(b)磁化が完全に飽和する直前に現れる磁気構造。

磁気秩序状態中で自発的に現れる内部磁場を精密に観測できるというNMR測定の特徴が、他の測定では難しかった磁場中磁気構造を特定するためのカギとなりました。パルス磁場強度を高速フィードバック制御することで実現する準定常磁場を使うNMRスペクトル測定は2021年に同研究グループで実用化された新しい測定技術です[参考文献]。今後は、パルス強磁場が必要となる極限的な磁場環境下で実現する磁気状態の解明に貢献する測定手法として活躍することが期待されます。

本成果は、2025年9月3日付でPhysical Review Bに掲載されました。

参考文献

発表論文

  • 雑誌名:Physical Review B
  • 論文タイトル:High-field NMR study of field-induced states in Pb(TiO)Cu4(PO4)4
  • 著者: Y. Ihara, T. Kanda, K. Matsui, K. Kindo, Y. Kohama, Y. Kato, Y. Motome, T. Kimura, and K. Kimura
  • DOI:https://doi.org/10.1103/q6wf-74tt

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(公開日: 2025年09月04日)