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室温付近まで維持される音波の非相反物性の発見

東京大学物性研究所の野村肇宏助教(現:東京電気大学講師)と小濱芳允准教授、東京大学工学系研究科の関真一郎准教授と高木里奈助教(現:東京大学物性研究所准教授)、理化学研究所のX.-X. Zhang博士と軽部皓介博士と田口康二郎グループディレクターらの研究チーム、Helmholtz-Zentrum Dresden-RossendorfのS. Zherlitsyn博士らの国際共同研究チームは、カイラル磁性体合金における超音波の非相反物性が高温ほど大きくなり、室温近くまで維持される現象を発見しました。音波物性の非相反現象は将来的に音響ダイオードや熱ダイオードに応用される可能性があり、その微視的機構を理解することは重要な研究課題です。本研究成果は2023年4月25日付けで、米国科学誌『Physical Review Letters』にオンライン掲載されました。

近代文明以降、人類はエレクトロニクスに基づき電子を自在に制御することで情報の演算処理を行い、高度な情報社会を発展させてきました。近年になり、フォノン(格子振動)を電子のように自在に制御するテクノロジー、フォノニクスが提唱されています。フォノンは物質における音波伝搬や熱輸送を担う素励起です。都市生活において騒音や排熱は公害の要因となりますが、フォノンを自在に整流することができれば、むしろ積極的に資源として利用することが考えられます。本研究では室温まで強磁性が維持されるカイラル磁性体Co9Zn9Mn2に着目し、音波の整流特性とその磁場・温度依存性を調べました。

図 (a)音波の非相反強度の温度依存性、(b)非相反の温度依存性を説明するマグノンーフォノン混成機構の模式図

図(a)に示すように、Co9Zn9Mn2における音波の非相反強度は高温ほど強くなり、その値は過去に報告されたCu2OSeO3の値よりも大きくなっています。音波の整流効率が高温ほど良くなるという効果は、将来的にデバイス応用する上で非常に有利に働きます。このような温度依存性を説明するために、図(b)のようなマグノンバンドの線幅が温度依存する機構を提案しました。本研究によって、フォノンの非相反強度を大きくするためには物質中におけるマグノンの寿命が十分長くなければならないということが明らかになりました。これは、他の物質におけるフォノンの非相反物性を探索する上で新たな研究指針と言えます。本研究を発端に、他の物質群においても音波や熱の整流作用に関する研究が発展することが期待されます。

発表論文

  • 雑誌名:Phys. Rev. Lett.
  • 論文タイトル:Nonreciprocal phonon propagation in a metallic chiral magnet
  • 著者: T. Nomura, X. -X. Zhang, R. Takagi, K. Karube, A. Kikkawa, Y. Taguchi, Y. Tokura, S. Zherlitsyn, Y. Kohama, and S. Seki
  • DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.130.176301
  • (公開日: 2023年04月26日)