沿革
第1世代(1957年〜)
物性研究所は、「物性物理学」の研究推進のため、昭和32年4月1日に、全国物性研究者の要望と日本学術会議の勧告 および、文部省と科学技術庁の合意に基づき、東京大学附置全国共同利用研究所として設立された。立ち遅れていた我が国の物性分野の研究設備・体制を国際的水準に高める拠点となるという設立当初の使命は、15年ないし20年でほぼ達成された。
第2世代(1980年〜)
次の目標は先端的実験技術を開発することに設定され、そのための重点5計画のうち、まず超低温物性は昭和55年度に、超強磁場・極限レーザー・表面物性が昭和59年度に設備計画を終え、軌道放射物性設備計画も昭和61年度にその緒についた。研究計画の展開に伴い、組織上でも昭和55年に改組が行われた。従来の固有21部門を、超強磁場・極限レーザー・表面物性・超低温物性・超高圧を含む極限物性部門、軌道放射物性部門、中性子回折物性部門、凝縮系物性部門、理論部門の5大部門に改め第2世代に移行した。
極限物性部門は、従来の実験装置では実現不可能な極限的状況を創ると共にその下での新しい物性の探索を行なった。軌道放射物性部門は加速器を光源に、中性子回折物性部門は原子炉を線源に用いるため、それぞれ他の研究機関の協力を得て研究を進めた。中性子回折物性部門では、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の研究用3号炉の改造に伴い、平成2 年度から4 年度までに線源の大幅な性能向上が図られ、平成5 年度から中性子散乱研究施設に拡充改組された。一方で、軌道放射物性研究施設は東京大学田無キャンパス内に設置されたSOR-RING を運転し、また、高エネルギー物理学研究所(現・高エネルギー加速器研究機構)内に分室を設けビームラインと実験ステーションを維持してきた。また凝縮系物性部門は、理論部門と共に、自由な発想による研究と新たな萌芽の育成を目的としていたが、その中から具体化した物質開発構想により、平成元年度に同部門から分離・新設された新物質開発部門を中心に研究活動が進められた。
第3世代(1996年〜)
平成8年には再び全面的な改組が行われ、第3世代に移行した。その主眼は、それまで開発された個々の極限環境や先進的測定技術を組み合わせることにより新しい現象を追求すること、表面・薄膜・微細加工物質などで代表されるメゾスコピック、ナノスケールでの人工物質を対象とする新しい研究領域開拓を目指すこと、また計算機物理学の支援の下に新物質を設計・合成することにより、伝統的な固体物理学の枠組みをこえる研究を展開し、それを発信する国際共同利用研究所としての活動を志向することにある。この研究体制は、新物質科学、物性理論、先端領域、極限環境、先端分光の5 大研究部門と軌道放射物性研究施設、中性子散乱研究施設、物質設計評価施設の3施設で構成された。このほかに所外研究者を一定期間所に迎えるための客員部門と外国人客員2 名をおき、所内外の交流・協力と、所の研究の活性化・流動化を促進している。
平成12年3月に、約40年間活動を展開した六本木キャンパスから東京大学の第3極としての柏新キャンパスに全面移転した。同時に移転した宇宙線研究所および、新設された大学院・新領域創成科学研究科と共に、従来の枠をこえた新しい学問領域の推進を目指した。
平成15年度には日米科学技術協力事業や茨城県東海村パルス中性子源計画へ対応するために、中性子散乱研究施設が中性子科学研究施設へと改組された。平成16年に東京大学が法人化され、その中での全国共同利用研究所としての新たな役割が期待された。また同年、先端領域部門をナノスケール物性研究部門と名称変更した。平成18年に国際超強磁場科学研究施設、平成23年に計算物質科学研究センターが新設された。軌道放射物性研究施設では、平成9 年のSOR-RING 運転停止以降、 高エネルギー加速器研究機構内に設置したつくば分室(平成26年廃止)や平成21年に大型放射光施設SPring-8内に設置した播磨分室で活動を行っている。平成24年度には、先端分光研究部門との統合により、極限コヒーレント光科学研究センターが発足した。平成28年度の改組では、新物質科学研究部門と極限環境物性研究部門の凝縮系物性研究部門への再編と、従来の枠を超えた新しい学問領域の推進を目指した機能物性研究グループと量子物質研究グループの創設を行なった(「物性研究所の改組について」物性研だより第56巻第2号 )。その後、企業との共同研究の進展に伴い、物性研究所では初めての社会連携研究部門としてデータ統合型材料物性研究部門が平成31年度には設置されるなど、新たな一歩を踏み出した。
第4世代(2026年〜)
設立後3回目となる全面的な改組が令和8年度に行われ、物性研は第4世代に移行した。平成8年の前回の改組から30年が経過し、物性研究の潮流の大きな変化に対応して次世代の物性研に繋げるために大幅な組織変更が必要となってきたことを受けての措置である。
特に微細加工技術の発展と量子物質研究の展開を受けて、ナノスケール物性研究部門と量子物質研究グループの一部を統合して新規に「量子ナノ物性研究センター」が作られた。令和4年に設置された量子物質ナノ構造ラボは「微細加工室」としてその下に位置付けられた。さらに物性理論研究部門以外の凝縮系物性研究部門、ナノスケール物性研究部門、量子物質研究グループ、機能物性研究グループを統合して、新たに2つの研究部門「先端計測研究部門」と「多様物性研究部門」が作られた。先端計測研究部門は従来からの物性研の強みである測定手法・装置の開発を得意とする所員を集め、施設・センターに所属する同様の所員を兼担として巻き込んで一つの部門としてまとめることにより、物性研究の潮流を先導するさらなる測定手法・装置の開発を推進して基礎科学の進化に寄与する。一方、多様物性研究部門の目指すところは、物性科学の対象を従来のバルク物質から表面・界面、ソフトマター、生体物質・システム系、微細加工試料へと拡大し、多様な物質系が示す多彩な物性を追求することにより、次世代の物性科学を先導することにある。
施設・センターでは中性子科学研究施設、国際強磁場科学研究施設、極限コヒーレント光科学研究センターが据え置かれ、物質設計評価施設と計算物質科学研究センターが2つの新規組織「物質創成研究センター」と「数値物性科学研究施設」に再構成された。これまで物質開発と計算物理グループから構成されていた物質設計評価施設のうち、物質開発グループを物質創成研究センターとして独立させ、計算物理グループとの連携を維持したまま国内外の物質開発拠点としての機能を強化する。一方、計算物理グループは計算物質科学センターと統合して近年のデータ科学の発展を踏まえた数値物性科学拠点に移行し、スパコン資源の効率的な運用を行う。物質設計評価施設は30年前に物質開発とデザインを連携するという斬新なコンセプトの元に設立されたが、現在ではその方向性が一般的となり当初の役割を終えたと判断して発展的に解消した。
さらに社会や物性コミュニティの要望に応えるために、社会連携研究部門としてデータ統合型材料物性研究部門とナノマテリアルイメージング研究部門、寄付研究部門としてヴィジュアライズCPS研究部門が設置されている。第4世代物性研はこの改組により物性科学の発展に対応して物性コミュニティの要望に応えるとともに、将来の更なる物性科学の進展を先導することができると考える。
年表
| 2026 | 令和8年 | 研究部門を従来の5部門から、物性理論、先端計測、多様物性の3部門に再編 附属研究施設を従来の5施設から、中性子科学研究施設、国際超強磁場科学研究施設、極限コヒーレント光科学研究施設、物質創成研究センター、数値物性科学研究施設、量子ナノ物性研究センターの6施設に再編 社会連携研究部門にナノマテリアルイメージング研究部門を新設 |
| 2025 | 令和7年 | 寄付研究部門にヴィジュアライズCPS研究部門を新設 |
| 2019 | 平成31年 | 社会連携研究部門にデータ統合型材料物性研究部門を新設 |
| 2016 | 平成28年 | 新物質科学研究部門と極限環境物性研究部門を凝縮系物性研究部門へ再編 機能物性研究グループと量子物質研究グループを創設 |
| 2012 | 平成24年 | 先端分光研究部門及び軌道放射物性研究施設を統合・再編。極限コヒーレント光科学研究センター発足 |
| 2011 | 平成23年 | 計算物質科学研究センターの新設 |
| 2010 | 平成22年 | 共同利用・共同研究拠点として認可 |
| 2007 | 平成19年 | 創立50周年 |
| 2006 | 平成18年 | 国際超強磁場科学研究施設の新設 |
| 2004 | 平成16年 | 東京大学が国立大学法人東京大学となる 先端領域研究部門をナノスケール物性研究部門に名称変更 |
| 2003 | 平成15年 | 中性子散乱研究施設を中性子科学研究施設に改組 |
| 2001 | 平成13年 | 外国人客員を新設 |
| 2000 | 平成12年 | 柏キャンパス移転 |
| 1996 | 平成8年 | 新物質科学、物性理論、先端領域、極限環境物性、先端分光の5大研究部門と軌道放射研究施設、中性子散乱研究施設に新たに物質設計評価施設を加えた3施設に再編 柏キャンパスにおける物性研究所実験棟建設着工 |
| 1994 | 平成6年 | 中性子散乱研究施設共同利用研究員宿泊施設竣工(茨城県那珂郡東海村) |
| 1993 | 平成5年 | 中性子散乱研究施設の新設 |
| 1989 | 平成元年 | 新物質開発部門(時限10年)を増設、6大部門となる |
| 1982 | 昭和57年 | 超強磁場・極限レーザー実験棟竣工 |
| 1980 | 昭和55年 | 従来の22部門を極限物性部門(超強磁場、極限レーザー、表面物性、超低温物性及び超高圧)、軌道放射物性部門、中性子回折物性部門、凝縮系物性部門ならびに理論部門の5大部門及び客員部門1に再編成 |
| 1979 | 昭和54年 | 超低温物性研究棟竣工 |
| 1976 | 昭和51年 | 放射線物性部門を超低温物性部門に名称変更 |
| 1975 | 昭和50年 | 軌道放射物性研究施設設置 |
| 1972 | 昭和47年 | 固体物性部門(客員部門)増設、22部門となる |
| 1969 | 昭和44年 | 中性子回折部門増設 共同利用研究員宿泊施設竣工 |
| 1964 | 昭和39年 | 非晶体部門を無機物性部門に名称変更 |
| 1961 | 昭和36年 | 磁気第2・非晶体・超高圧・理論第3部門増設、20部門となる |
| 1960 | 昭和35年 | 結晶第2・理論第1・固体核物性・界面物性部門増設 物性研究所 本館竣工(六本木) |
| 1959 | 昭和34年 | 半導体・分子・格子欠陥・塑性・放射線物性部門増設 |
| 1958 | 昭和33年 | 誘電体・光物性部門、理工研から振替 極低温・磁気第1部門増設 |
| 1957 | 昭和32年 | 共同利用研究所として発足 電波分光・理論第2部門、理工研から振替:結晶第1部門新設 |