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第22回物性研究所所長賞を石川孟氏、藤野智子氏、秋葉宙氏に授与

3月5日、柏図書館メディアホールにて第22回(令和6年度)物性研究所所長賞授与式が行われました。物性研で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰するISSP学術奨励賞には、国際超強磁場科学研究施の石川孟助教と凝縮系物性研究部門の藤野智子助教が選ばれました。そして技術開発やその他活動により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するISSP柏賞は中性子科学研究施設の秋葉宙助教に授与されました。

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前列左から:廣井善二所長、石川孟助教、藤野智子助教、秋葉宙助教、松田康弘副所長
後列はそれぞれの推薦人代表者、左から:金道浩一教授、森初果教授、山室修教授

物性研究所 所長賞 歴代受賞者

ISSP学術奨励賞

石川孟氏「スピン軌道結合ハニカム系における新奇物性の開拓」

石川氏は量子磁性や超伝導といった新奇電子物性を示す物質の開発を行い、さらに、強い磁場を印加することで発現する新現象の発見に取り組んでいます。その中でスピン軌道相互作用を有する遷移金属元素がハニカム格子を組む金属有機構造体 (Metal Organic Framework, MOF)やハイブリッド物質 [1,2,3]、層状ヨウ化物[4,5,6]といった物質系の純良な試料の合成に成功し、物性研究所で利用可能なパルス強磁場や極低温環境を利用した物性評価を行うことで、フラストレート磁性や強磁場誘起相 [1,2,5]、転移温度12 Kの磁場に強固な超伝導[4]といった新奇物性を観測しました。

特に、三次元ハニカム構造をもつMOF に関する成果は注目が高く、2017 年に押川研究室から発表された理論予測を具現化する物質を初めて実験的に示した例であることから、理論部門と実験部門の連携が生んだ成果といえます。

以上のように、高い物質開発力を軸に、極限環境に取り組む実験家や理論研究者と協同することによって、多くの画期的な成果を生み出した点が評価されました。

藤野智子氏「分子軌道エンジニアリングを基盤としたオリゴマー分子性導体・金属錯体型半導体の開拓」

藤野氏は、機能性を有する分子性導体および半導体材料の開発と物性を解明する研究を行っています。特に、分子の軌道エネルギーや対称性、分子形状を精密に設計することで、凝縮系固体の電子構造と物性を制御する「分子軌道エンジニアリング」の概念を基盤として物質開拓を進め、オリゴマー分子性導体・金属錯体型半導体分野において新たな一里塚を打ち立てました。

従来の分子性伝導体では、小分子や高分子を中心に研究が進められてきましたが、同氏は小分子と高分子の境界領域であるオリゴマー分子を基軸とした分子性導体群の開拓に取り組みました。特に、オリゴマー固有の分子鎖の伸長、異種ユニットの配列化、末端基効果を利用し、電子相関の調整、次元性の制御など[1,3,4,6-8]、オリゴマー伝導体の物性科学を体系化しました。その結果、オリゴマー伝導体で初の金属化[4]、電気伝導度が低いとされていた交互積層錯体の高伝導化[2]を実現させました。さらに安定かつ塗布型の両極性半導体材料の開発[5]など、産業応用に向けた発展可能性も示しています。

これらの成果は、物理学、化学、工学の融合研究の大きな可能性を示したもので、異分野を橋渡しする研究をさらに推進し、新分野創成に繋がることが大いに期待されます。

ISSP柏賞

秋葉宙氏「高分解能パルス冷中性子分光器AGNESの高度化と先端物質研究」

秋葉氏は、JRR-3で唯一の飛行時間(TOF)型分光器の大幅な高度化を行いました。まず、原子炉から中性子を分光器まで輸送する導管をスーパーミラー導管(内壁はNi/Tiの多層膜)に置き換え、次にモノクロ/チョッパー間のコリメーター内壁にもスーパーミラーを導入しました。これにより、中性子強度は標準モードで約8倍、高分解能モードで約3.5倍に増加しました。また測定する試料周りでは、室温(300 K)から3 Kまで2.5時間で冷却でき、800 Kまで昇温可能なクライオファーネスを作成し幅広い領域に対応できるようにしました。さらに、新しい装置制御プログラムを導入し、これまで不可能であった弾性散乱強度の連続温度スキャンなどの測定も可能にしました。

同氏はこの大幅に高度化されたAGNESを用いて、これまで試料量が少なすぎて測定が難しかった低温蒸着試料[1]、有機溶媒中に極微量(1%以下)分散した水クラスター[2]の研究を行いました。また、多数の試料と温度点が必要である強靱ポリマーの研究[3]でも成果をあげています。

以上のように、装置高度化の成功により共同利用に大きな貢献をした点、その装置を活かして研究室学生や共同利用ユーザーと重要な成果をあげたことが評価されました。


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(公開日: 2025年03月07日)