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第19回物性研究所 所長賞を、許 明然氏、酒井 明人氏、小瀬川 友香氏、荒木 実穂子氏に授与

3月2日、物性研究所にて第19回(令和3年度)物性研究所所長賞授与式が行われました。物性研で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰するISSP学術奨励賞には、大谷研究室の許 明然氏(現:スイス連邦工科大学・Scientist)と中辻研究室助教の酒井 明人氏(現:東京大学大学院理学系研究科・講師)が選ばれました。そして技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するISSP柏賞は附属極限コヒーレント光科学研究センターの学術専門職員である小瀬川 友香氏、荒木 実穂子氏に授与されました。

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前列左から:森初果所長、酒井明人氏、小瀬川友香氏、荒木実穂子氏、吉信淳副所長、後列左から:中辻知教授、松田巌教授、原田慈久教授、スクリーン左から:許明然氏、大谷義近教授

物性研究所 所長賞 歴代受賞者

ISSP学術奨励賞

許 明然氏「音響ダイオード基礎原理の実験的検証」

許氏は、スピントロニクス研究の中でも新たな研究領域として注目されている準粒子結合であるマグノン・フォノン結合に着目して研究を進めています。特に、修士課程では、圧電体と磁性体からなる二層薄膜を用いてマグノン・フォノン結合を媒介として生じる音響スピンポンピングによるスピン流の生成・検出の実験に成功しました[1]。
博士課程に進学してからは、上述のスピン流検出信号の強度が音波の進行方向に依存して変化することにいち早く気が付き、音波の伝搬について強磁性薄膜の膜厚依存性や磁場印加方向依存性などの詳細な実験を進めました。その結果、固体表面に沿って伝搬する音波が強磁性薄膜を通過する際に片側から入射する場合にのみ強磁性体に吸収されず100%伝搬するダイオード効果を発見しました。更に、この現象の発現機構が表面を伝搬する音波(レイリー波)が磁性薄膜の格子点に回転運動を引き起こし、磁気回転結合を通じて生じることを理化学研究所の計算量子物性研究チームや原研先端基礎研究センターとの共同研究を行い、実験と理論の両面から明らかにしました[2]。この研究成果は表面音波を用いた情報処理や絶縁体における熱の運び手である音波を制御することによる排熱の有効利用などに向けた音響ダイオードの開発に貢献することが期待されています。

  1. M. Xu, J. Puebla, F. Auvray, B. Rana, K. Kondou & Y. Otani, “Inverse Edelstein effect induced by magnon-phonon coupling”, Phys. Rev. B 97, 180301(R)-1~4 (2018).
  2. M. Xu, K. Yamamoto, J. Puebla, K. Baumgaertl, B. Rana, K. Miura, H. Takahashi, D. Grundler, S. Maekawa & Y. Otani, “Nonreciprocal surface acoustic wave propagation via magneto-rotation coupling”, Sci. Adv. 6, 1724-1~4 (2020)
酒井 明人氏「室温巨大異常ネルンスト効果を示すトポロジカル磁性体の開拓」

酒井氏は世界の競合グループに先駆けて、ワイル強磁性体Co2MnGaおよびノーダルウェブ磁性体Fe3X (X = Ga, Al)と新規トポロジカル磁性体を相次いで発見し、これらの物質において巨大異常ネルンスト効果が室温で発現することを実験的に示しました。新たなトポロジカルな電子構造として学術的に大きな価値があり、強相関・量子物性、スピントロニクスなどの分野に大きな影響を与えました。これらの成果はその後、光電子分光によるワイル点の観測、薄膜での巨大異常ネルンスト効果の観測、巨大スピンホール角の発見など様々な研究に発展するなど、独創性と先駆性が認められます。また、室温巨大異常ネルンスト効果を用いた新しい熱電応用の研究が開始し、NEDO先導研究や様々な企業との共同研究での新たな顕著な成果へと繋がっています。

  1. A. Sakai, S. Minami, T. Koretsune, T. Chen, T. Higo, Y. Wang, T. Nomoto, M.
    Hirayama, S. Miwa, D. Nishio-Hamane, F. Ishii, R. Arita and S. Nakatsuji,
    “Iron-based binary ferromagnets for transverse thermoelectric conversion” Nature
    581, 53 (2020).
  2. A. Sakai, Y. P. Mizuta, A. A. Nugroho, R. Sihombing, T. Koretsune, M.-T. Suzuki,
    N. Takemori, R. Ishii, D. N.-Hamane, R. Arita, P. Goswami and S. Nakatsuji, “Giant
    anomalous Nernst effect and quantum critical scaling in a ferromagnetic semimetal”
    Nature. Phys. 14, 1119–1124 (2018).

ISSP柏賞

小瀬川 友香氏、荒木 実穂子氏「播磨分室における周辺技術開発と環境改善」

SPring-8にある東京大学物性研播磨分室では、2009年から高輝度軟X線ビームラインBL07LSUにてスタッフ交代で年間およそ200日のビームタイム中、週7日24時間体制で共同利用に供しています。その中で小瀬川氏と荒木氏は、ビームラインのコア技術である分割型クロスアンレジュレータのコンポーネントの開発とSPring-8 施設の技術調整を行なってきました。例えば、小瀬川氏はクロスアンレジュレータの心臓部である移相器について、ミクロン単位での電磁石コイルの位置調整するなど、荒木氏は分割型クロスアンレジュレータを用いた実験のためにSPring-8の循環水システムに合わせた水圧・水温の冷却システムを設計するなど、ビームラインでの要素技術開発を多数実施し、一部は論文成果として発表もしています[1-4,7]。

他方、播磨分室ではSPring-8の隣のX線自由電子レーザー施設SACLAでも新技術開発を行なっており、荒木氏は新たな光学調整法を開発し実証実験に成功すると筆頭著者として論文発表も行いました[5]。このように先端高分解能実験をサポートするだけでなく、「安定かつ再現性ある」周辺技術を開発し、これらが共同利用ユーザーや播磨スタッフのデータ取得において重要な役割を果たしてきました。

またSPring-8の一般公開では、光を音に変えた(光で奏でる)「楽器」を開発したり[6]、産業医と相談して「心のケア」の相談員として職員や外国人院生を含む院生のメンタルサポートも行っています。以上のように物性研スタッフの一員として共同利用の現場業務を超越して、技術革新、社会貢献、環境改善(メンタルケア・コロナ禍対応)に尽力してきました。

  1. I. Matsuda, Y. Kosegawa et al., Nuclear Inst. and Methods in Physics Research A 767, 296–299 (2014).
  2. Y. Kubota, M. Araki et al., Phys. Rev. B 96, 214417 (2017).
  3. Y. Kubota, M. Araki, et al., Phys. Rev. B 96, 134432 (2017).
  4. Y. Kubota, M. Araki, et al., J. Electron Spectrosc. Relat. Phyenom. (published online: dx.doi.org/10.1016)
  5. M. Araki, et al., e-J. Surf. Sci. Nanotechnol. 18, 231-234 (2020).
  6. 小瀬川 友香, 荒木 実穂子 他「光が奏でる楽器」, 表面と真空 61, 103(2018).
  7. M. Horio, M. Araki, Y. Kubota et al., e-J. Surf. Sci. Nanotechnol. 20, XX−XX (2022)
(公開日: 2022年03月07日)