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カゴメ格子に由来する磁気熱電効果の増大機構の発見 -高機能磁気熱電変換材料の新たな物質設計指針へ-

東京大学大学院理学系研究科の見波 将 特任研究員、酒井 明人 講師、中辻 知 教授らの研究グループは、東北大学大学院理学研究科の是常 隆 准教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 計算物質科学研究チーム 客員研究員)、東京大学大学院工学系研究科の野本 拓也 助教(理化学研究所 創発物性科学研究センター 計算物質科学研究チーム 客員研究員)、平山 元昭 特任准教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター トポロジカル材料設計研究ユニット ユニットリーダー)、有田 亮太郎 教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 計算物質科学研究チーム チームリーダー)らの研究グループと協力して、鉄を主とするカゴメ格子(注1)強磁性体Fe3Snにおいて巨大な磁気熱電効果=異常ネルンスト効果)(注2)(が発現することを発見しました。加えて、第一原理計算(注3)を用いたコンピュータシミュレーションによる電子状態の解析の結果、ノーダルプレーンと呼ばれる特殊な電子状態が、カゴメ格子強磁性体Fe3Snにおける巨大な磁気熱電効果の起源となっていることが明らかとなりました。

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図1:磁気熱電効果を活用した熱電変換モジュールとFe3Sn の結晶構造の概念図
(a)磁気熱電効果を用いた熱電変換モジュール。磁気熱電効果により生じる起電力は温度勾配と磁化に対し垂直に生じるため、従来の熱電効果を用いた熱電変換モジュールと比較し接合部の少ない簡便なモジュール構造が実現可能です。(b)カゴメ格子強磁性体Fe3Snの結晶構造。Fe3Snはc軸方向に磁性原子の鉄(Fe、赤色の球)からなるカゴメ格子が積層した構造を有します。磁気転移温度が490℃と高いためさまざまな環境での動作が期待されます。

磁気熱電効果の性能は、物質固有の電子状態や波動関数のトポロジーに由来する物理量(=ベリー曲率(注4))が一端を担っています。磁気熱電効果の増大機構はこれまで未解明の部分が多くありましたが、今回発見したカゴメ格子に由来するノーダルプレーンと呼ばれる電子状態により巨大なベリー曲率が誘起し、磁気熱電効果が増大していることが明らかとなりました。また、このような特異な電子構造はカゴメ格子構造を持つ磁気熱電材料に発現する可能性があります。本研究で発見したカゴメ格子に由来する磁気熱電効果の増大機構は、今後の高機能磁気熱電変換材料の新たな物質設計指針になると期待されます。

本研究成果は米国科学誌Science Advances(2022年1月15日)に掲載されました。

理学系発表のプレスリリース

発表論文

  • 雑誌名:Science Advances
  • 論文タイトル:Large anomalous Nernst effect and nodal plane in an iron-based kagome ferromagnet
  • 著者:Taishi Chen*, Susumu Minami*, Akito Sakai*, Yangming Wang, Zili Feng, Takuya Nomoto, Motoaki Hirayama, Rieko Ishii, Takashi Koretsune, Ryotaro Arita, Satoru Nakatsuji† (* : equal contribution, †: corresponding author)
  • DOI:10.1126/sciadv.abk1480

用語解説:

(注1):カゴメ格子
原子が籠目状に配置した結晶構造を指します。今回発見したFe3Snでは図1bに示すように、鉄(Fe)原子がカゴメ格子を形成します。
(注2):従来型熱電技術(ゼーベック効果)と磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)
物質に温度差を加えると、電流の運び役となる電子(キャリア)が温度差に沿って移動するため、温度差と同じ方向に起電力が生じます(ゼーベック効果)。一方、磁性体では磁化の存在のためキャリアの移動が曲げられ、磁化と熱流に垂直方向にも起電力を示します(異常ネルンスト効果)。ゼーベック効果の場合、起電力が温度勾配と並行に生じるため、熱電変換モジュールを作成する際には多くの接合部が必要となり、そのようなモジュールはΠ型素子と呼ばれています。一方で、異常ネルンスト効果の場合、起電力が温度勾配に対し垂直に生じるため(図1a)に示すような非常にシンプルな熱電変換モジュールが作成可能であり、応用上のさまざまなメリットが期待できます。
(注3):第一原理計算
量子力学のシュレディンガー方程式に従って、物質中の電子の運動をコンピュータで計算する方法を第一原理計算と呼びます。本研究では密度汎関数理論に基づいた第一原理計算を用いています。密度汎関数理論は、第一原理計算の中でも電子密度をベースに物質の性質を計算する手法で、固体物理や量子化学の分野で頻繁に用いられており、スーパーコンピュータなどの大規模な計算機などを活用し、計算を行います。
(注4):ベリー曲率、波動関数のトポロジカルな性質
ベリー曲率は運動量空間上の波動関数により定義されます。このベリー曲率は運動量空間上であたかも磁場(仮想磁場)のような振る舞いを電子に与え、温度勾配に対して垂直方向の運動を与えます。この効果が磁気熱電効果特有の温度勾配に対する垂直な起電力の起源の一つとなっています。このベリー曲率は波動関数のトポロジカルな性質(位相幾何学的性質)に起因します。Fe3Snではノーダルプレーンにより巨大なベリー曲率が発現しています。巨大な仮想磁場が電子により大きな横方向の運動を与えていると解釈することもでき、ノーダルプレーンが巨大な磁気熱電効果の起源となっているといえます。
(公開日: 2022年01月15日)