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2次元多孔性有機金属薄膜により特定の蟻酸分子オリゴマーが生成

東京大学物性研究所の吉信淳教授は、群馬工業高等専門学校電子メディア工学科の塚原規志准教授(2023年度物性研究所客員所員)と共同で、2次元多孔性薄膜の孔内に蟻酸分子を吸着させることで、特定の蟻酸分子オリゴマーが優先的に生成することを見出し、その機構を解明しました。

原子層厚さの多孔性有機金属ネットワーク(2D-Metal Organic Network, 2D-MON)は、ホストとして、その孔内に様々なゲスト吸着分子をトラップできます。走査トンネル顕微鏡(STM)と密度汎関数理論(DFT)計算と組み合わせることで、トラップされたゲスト分子および集合体(オリゴマー)の構造およびホスト-ゲスト間相互作用を、単一分子レベルで観測し、解明することができました。

本研究では、Cu(111)表面においてCu原子と1,3,5-トリス(ピリジル)ベンゼン(TPyB)分子の結合によって得られる多孔性2D-MONをホストとして、蟻酸分子をゲスト分子として用いました。蟻酸は水素を貯蔵するキャリアー分子の一つとして着目されており、蟻酸の貯蔵はエネルギー貯蔵の観点から重要です。

図1(a)は、超高真空中にて2D-MONが構築されたCu(111)表面を78 Kに冷却し、蟻酸分子を吸着させた後のSTM像です。孔の中にジグザグ・チェーンが観測されます。Cu(111)表面におけるジグザグ・チェーンは、蟻酸分子が水素結合で折れ線状に凝集したものです。孔の中では、図1(b)の構造が最も多く観測されます。この構造は、2D-MONに含まれる2配位Cuに隣接する位置に蟻酸分子が吸着し、そこから3つの蟻酸分子が水素結合によってチェーンを形成したものです。つまり、孔の中ではテトラマー(4分子鎖)が優先的に形成されることがわかりました。

fig1
図1 (a) 2D-MONを構築したCu(111)表面に蟻酸を吸着させた後のSTM像。基板温度78 K。(b) 孔の中におけるテトラマーおよびモノマーのSTM像。(c) DFT計算によって得られたテトラマーの模式図を重ねたテトラマーのSTM像。

図2は、DFT計算によって得られた孔の中の蟻酸分子テトラマーチェーンの安定構造、およびテトラマー吸着によって生じる電荷分布の変化です。チェーンの両端およびそれに隣接する2D-MONにおいて電荷分布の変化が見られます。これは、チェーン両端が、ホスト-ゲスト間相互作用によって安定化されることで、孔の中ではテトラマーが優先的に生成することを示しています。 本研究は、2D-MONの形状およびホスト-ゲスト間相互作用を利用することで、分子の特定の凝集構造(オリゴマー)を制御できる可能性を単一分子レベルで観測し解明した初めての成果です。

本研究の成果は、2025年9月27日に学術出版社John Wiley & Sonsが発行する『Small』誌にオンライン掲載(open access)されました。

fig2
図2 DFT計算によって得られた、孔の中でのテトラマーの模式図と、テトラマー吸着によって生じる電荷分布の変化。チェーン両端とそれに隣接する2D-MONにおいて電荷分布の変化が見られる。

発表論文

  • 雑誌名:Small, 2025, e05213 (2025年9月27日オンライン掲載)
  • 論文タイトル:Microscopic Observation of the Oligomerization Process of HCOOH Molecules Confined by a 2D Metal-Organic Network on Cu(111)
  • 著者: N. Tsukahara and J. Yoshinobu
  • DOI:10.1002/smll.202505213

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(公開日: 2025年09月30日)