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低温のCu微傾斜表面における二酸化炭素分子の解離と反応機構を発見

京都大学大学院理学研究科の小板谷貴典准教授(当時、物性研究所特任研究員)、東京大学物性研究所の塩澤佑一朗氏(研究当時 大学院生)と芳倉佑樹氏(同 大学院生)、向井孝三技術専門員、吉本真也助教(当時)、𠮷信淳教授らは、温度が80-90 K程度の銅(Cu)の微傾斜表面で二酸化炭素(CO2)が解離することを赤外反射吸収分光(IRAS)、走査トンネル顕微鏡(STM)、KEK-PFにおける放射光内殻光電子分光などで観測し、その解離反応機構を質量分析計による結果と合わせて明らかにしました。

CO2は炭素資源の消費によって生成し、地球温暖化の原因とされている物質です。有限量の炭素資源を将来的に持続して利用してゆくためには、生じた二酸化炭素を有用な分子に再び転換する反応系の実現が望まれています。その一つとして、銅-酸化亜鉛触媒を用いたCO2の水素化によるメタノール合成があげられます(化学式1)。また、銅は水性ガスシフト反応(化学式2)の触媒となることも知られています。

CO2 + 3H2 ⇄ CH3OH + H2O (化学式1)
CO + H2O ⇄ CO2 + H2 (化学式2)

これらの反応では金属銅ナノ粒子が触媒として用いられていますが、化学的に安定なCO2分子がどのように銅表面で反応するのかは良く分かっていませんでした。

今回の研究では図1(a)のように表面構造が良く規定された銅単結晶表面(Cu(997)およびCu(111))を用いて、銅表面上でのCO2分子の反応を複数の実験手法で調べました。図1(b)に示す赤外反射吸収スペクトルから、試料温度83 Kにおいて微傾斜Cu(997)表面上でCO2分子が解離して一酸化炭素(CO)が生じることが明らかになりました。一方、Cu(111)表面では解離反応は全く検出されず、銅表面のステップなどの欠陥サイトで反応が起きていることを示す結果が得られました。さらに、STM、放射光内殻光電子分光法、質量分析法など他の実験手法を用いて反応機構に関して詳細に調べたところ、CO2分子は超高真空槽中の残留COと酸素交換反応を起こすことがわかり、結果として表面にCO分子が吸着するということが分かりました(図2)。一連の実験結果は、CO2分子内のC=O結合が低温の銅表面の欠陥サイト(ステップなど)で容易に解離しうることを示しています。

fig1

図1 (a) Cu(997)およびCu(111)表面の模式図。(b)CO2曝露時のCu(997)(83 K)およびCu(111) (85 K)の赤外反射吸収スペクトル。
fig2

図2 Cu(997)表面でのCO2とCOの酸素同位体交換反応の模式図(左)とステップ上端にCOが並んで吸着したCu(997)表面のSTM像

本研究の成果は2024年3月6日に英国王立化学会誌『Physical Chemistry Chemical Physics』にオンライン掲載され、2024 PCCP HOT Articleに選ばれました。なお、本論文はオープンアクセスですので、どなたでもダウンロードして読むことができます。

論文情報

  • 雑誌 : Physical Chemistry Chemical Physics
  • 題名 : Low-temperature dissociation of CO2 molecules on vicinal Cu surfaces
  • 著者 : Takanori Koitaya, Yuichiro Shiozawa, Yuki Yoshikura, Kozo Mukai, Shinya Yoshimoto and Jun Yoshinobu
  • DOI : 10.1039/d3cp06336d

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