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一般講演会「知って驚き!意外と知らない触媒の話」を開催しました

2月18日、東京大学柏の葉キャンパス駅前サテライトおよびオンラインにて、一般講演会「知って驚き!意外と知らない触媒の話」を開催しました。この講演会は、物性に関する研究成果を広く社会に還元・普及することを目的に年に一度開催しているものです。今年は、「触媒」をテーマにし、物性研の𠮷信淳 教授、九州大学の山内美穂 教授を招いて講演を実施、現地とオンライン合わせて150人以上の方に参加いただきました。

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吉信淳教授
𠮷信淳 教授

𠮷信淳 教授(東京大学物性研究所)は、「触媒のブラックボックスを覗く」と題し、人類と触媒の歩み、触媒の表面では何が起こっているのか、触媒表面の研究の仕方などについて講演を行いました。

【講演概要】世の中の燃料やプラスチック製品、化学繊維の衣服、医薬品といった身近な製品は、その多くが触媒を使って作られています。20世紀初頭からこれまで、多数のノーベル化学賞が触媒分野に贈られてきました。中でも、水素と窒素からアンモニアを直接合成するハーバー・ボッシュ法の開発は、食糧生産に使う肥料の大規模な製造、ひいては世界の人口増加に繋がりました。また、大気汚染などの環境問題は触媒により解決されました。

20世紀初頭に発見された触媒作用ですが、その詳細なメカニズムがわかったのは20世紀後半のことです。これまでブラックボックスだった触媒の特異性・機能性は表面にありました。1960年代にさまざまな表面分析法が開発され、精密に規定されたモデル表面を調製し、観測できるようになりました。今日では、コンピュータシミュレーションと実験結果を照らし合わせることで材料機能の本質を決める場である表面を研究しています。私たちの研究グループでは、触媒の表面に付着した分子が段階的に分解されていく様子を測定したり、触媒表面に不純物を導入した時の表面の変化を走査トンネル顕微鏡で観測しています。ブラックボックスだった触媒表面をナノスケールで観測することにより、よりよい触媒の開発や仕組みの解明を行なうことができるのです。

山内美穂教授
山内美穂 教授

山内美穂 教授(九州大学先導物質化学研究所)は、「カーボンニュートラルに向けた触媒からのアプローチ」と題し、大気中に放出される二酸化炭素を有効活用する必要性とその方法について講演を行いました。

【講演概要】私たちは、大気中の二酸化炭素を回収してそれを原料に有用な化学品を作っています。触媒の力を使うことにより、二酸化炭素をメタンなど有用な化学品へと変換することが可能です。さまざまな金属が触媒となり得ますが、どの元素を使うか、どんな元素を混ぜるか、どのように混ぜるかによって発生する化学品や、その生成割合が異なります。目的の物質がより多く作れるようなナノ合金触媒を作製することやその活性を調べることが私の研究内容になります。

二酸化炭素から作られるカーボンニュートラルな化学物質の作製は、再生可能エネルギー由来の電気を使うため従来品に比べ高いコストがかかります。私たちの研究グループでは、この電気をいかに安くするかという点にも取り組んでいます。再生可能エネルギーは時間帯や気候条件によって発電量が異なるため、蓄電システムの発展が必要です。既存の電池は資源供給の面で問題があり、電気を水素に変換する方法には水素の管理面に不安が残ります。そこで、我々は発電した電力をアルコールに貯めるシステムを考案しました。アルコールは燃料電池の燃料になり、発電を終えたアルコールは有機酸(酢の仲間)なりますが、この有機酸を電気を使ってアルコールに戻すことができます。これは、直接液体に蓄電するシステムとして、さらに、二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラルな電力循環システムとして注目されています。

質疑応答では「ハーバー・ボッシュ法は100年続いているが、新しい方法はないのか」、「触媒は劣化するのか」、「第一原理計算を行う理由は」などの声が現地、オンラインともにあがりました。現地では閉会後も残った先生に質問を投げかける様子が見られました。

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質疑応答の様子
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オンライン配信の様子
オンライン配信_2

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(公開日: 2024年02月29日)