一般講演会「X線写真で見る 海の未来」を開催しました
11月4日(月・祝)、柏の葉キャンパス駅前サテライトおよびオンラインにて、一般講演会を開催しました。この講演会は、物性に関する研究成果を広く社会に還元・普及することを目的に年に一度開催しているものです。今年は、「X線写真で見る 海の未来」をテーマに、東京大学大学院農学生命科学研究科の児玉 武稔 准教授、物性研究所の木村 隆志 准教授にお話しいただき、現地とオンライン合わせて100名以上の方にご参加いただきました。
児玉准教授は「軟X線顕微分析で地球環境予測の高度化を目指す」と題した講演を行いました。近年の気温や海水温の上昇変化を観測データから、イカや魚、さらには目に見えないプランクトンまでもが、水温上昇により影響を受けていることを紹介しました。中でも児玉准教授は植物プランクトンに着目し、植物プランクトンがどのような元素をどのくらい海の深層へ運んでいるのかを調べています。そして軟X線顕微分析により調べた結果、これまでの経験値からの計算とは1プランクトンあたりに含まれる炭素量に違いがあることなどが紹介されました。同じ種のプランクトンでも海域等によって異なるため、今後さまざまな環境でのプランクトンの元素組成を調べることで、地球規模の元素循環を解明したいと締めくくりました。
続いての講演は木村准教授による「ここまで見える最先端のX線顕微鏡」でした。数十μmサイズのプランクトンの内部構造を調べるには、強く明るいX線(放射光)が有用です。木村准教授は放射光X線を利用した顕微鏡を開発しており、タイコグラフィという手法を組み合わせることにより、回折パターンから試料の像を得ることに成功しています。プランクトン1個体のX線顕微分析からは、炭素に加えて、窒素、酸素がどこにどのような化合物の状態で、どのくらいの量分布しているのかが分かります。さらには現在3次元での計測にも挑戦しており、立体的に元素分布を調べることもできるようになることも紹介されました。今回は細胞を対象とした講演でしたが、X線顕微分析は触媒や創薬、新規デバイスなどさまざまなものに適用できるため、今後の広がりへの期待が示されました。
参加者からは「X線を光源として顕微鏡を作ることで、あのような微細な構造まで解析できることに感動しました。」や「海が二酸化炭素を吸収する量が、意外と多かった点が 興味深かったです。」と言った感想が寄せられました。
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