磁気スキルミオンによるトポロジカル熱ホール効果の観測に成功
赤澤仁寿氏(研究当時博士課程学生)と東京大学物性研究所の山下穣准教授の研究グループは、Korea大学のHyun-Yong Lee准教授、東京大学新領域創成科学研究科物質系専攻の徳永祐介准教授と有馬孝尚教授、Sungkyunkwan大学のJung Hoon Han教授のグループと共同で、磁気スキルミオンが発現する強磁性絶縁体GaV4Se8において、磁気スキルミオンによって熱流が曲げられる「トポロジカル熱ホール効果」の観測に成功しました。
現在、固体中のスピン構造などがつくる創発磁場の効果の研究に注目が集まっています。それは、こうした創発磁場は電子の波動関数に直接作用するため、固体の外から加える電場・磁場よりもはるかに大きな効果を物性にもたらすからです。その最も顕著な例の一つが「磁気スキルミオン」と呼ばれる固体中のスピンがつくる渦構造です。磁気スキルミオンは数テスラから数百テスラという大きな創発磁場を作ることで知られているだけでなく、トポロジーに保護された安定な渦構造なのでデバイスへの応用可能性も検討されている磁気構造です。この磁気スキルミオンが生み出す創発磁場は、外部から磁場を印加した時と同じように金属中を流れる電子に作用し、ローレンツ力によるホール効果によって電子を曲げることが知られています。一方、電子が流れない絶縁体ではどのような影響があるかは不明でした。
本研究では、磁気スキルミオンが発現する強磁性絶縁体のGaV4Se8における熱輸送特性を詳しく調べた結果、磁気スキルミオンが発現する温度―磁場領域だけで大きな熱ホール効果が観測されることが見つかりました(図1右)。また、室温からの冷却途中の構造相転移温度で磁場を印加することで、試料中に形成される磁気スキルミオンの領域が広くなり、それによって熱ホール信号も大きくなることがわかりました。この磁気スキルミオン中の熱ホール効果を理論的に詳しく解析した結果、スピンの波が熱を運ぶマグノン励起が磁気スキルミオンの生み出す創発磁場によって曲げられる「トポロジカル熱ホール効果」によって熱ホール効果(図1左)が生じていることがわかりました。これらの結果は、電気の流れない絶縁体で、電荷をもたないマグノン流にも磁気スキルミオンの創発磁場が作用することを明らかにした研究成果で、固体中のスピン構造が生み出す創発磁場の理解と応用を大きく進展させる結果です。
本研究は、日本学術振興会科学研究費 (JP19H01848、JP19K21842、JP19H05826)などの助成を受け行われました。
発表論文
- 雑誌名:Physical Review Research
- 論文タイトル:Topological Thermal Hall Effect of Magnons in Magnetic Skyrmion Lattice
- 著者: Masatoshi Akazawa, Hyun-Yong Lee, Hikaru Takeda, Yuri Fujima, Yusuke Tokunaga, Taka-hisa Arima, Jung Hoon Han, Minoru Yamashita
- DOI:10.1103/PhysRevResearch.4.043085
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