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フォノン熱ホール効果の磁場角度依存性の観測に成功

東京大学物性研究所のJian Yan研究員(研究当時、現:成都大学 Assistant Professor)、武田晃助教、山浦淳一准教授、山下穣准教授らは台湾中央研究院のRaman Sankar教授らのグループと共同で、絶縁体中で熱を運ぶフォノンの熱ホール効果の磁場角度依存性の観測に成功し、その熱ホール効果が不純物の散乱によって現れている可能性を提案しました。これは謎に包まれた絶縁体中の熱ホール効果の解明につながる成果です。

「ホール効果」は磁場によるローレンツ力によって電気の流れが曲げられる現象で、物性研究から半導体の特性評価までさまざまな分野に応用されている現象です。このホール効果は金属中を流れる電子が起こす現象なので、絶縁体では観測されません。ところが、絶縁体に熱流を流して磁場を印加すると、その熱流がホール効果のように磁場によって曲げられる「熱ホール効果」が観測されることが多数の絶縁体で最近発見されました。特に、絶縁体での熱輸送の大部分は格子振動によるフォノンが担うのですが、このフォノンによる熱輸送も熱ホール効果を示すことが明らかになっています。フォノンと磁場は互いに影響を及ぼさないと通常は考えられるので、フォノンの示す熱ホール効果は不思議な現象で、その解明に大きな注目が集まっています。

本研究では熱流と磁場の間の角度を変えて熱ホール効果の磁場角度依存性(図1(b)参照)を調べることで、その起源の解明を試みました。フォノンの熱ホール効果に対しては、フォノン自身がもつ内因性のメカニズムに基づく理論と、不純物散乱などの外因性の理論が提案されています。前者であればその磁場依存性は物質の持つ磁気異方性によって決まりますが、後者の場合は熱流と磁場の角度だけで決まることが期待されます。今回、透明の非磁性絶縁体であるNa2Zn2TeO6(図1(a)参照)で熱ホール効果の磁場角度依存性を測定したところ、磁場と熱流の間の角度θに対して熱ホール伝導率がcos⁡θの磁場角度依存性(図1(c)の灰色点線)を示すことを発見しました。この物質は磁気異方性のない非磁性絶縁体なので、この磁場角度依存性は不純物散乱によって熱ホール効果が表れていることを意味します。さらに、同じ結晶構造を持つ磁性絶縁体であるNa2Co2TeO6の磁場角度依存性(図1(c)の赤丸)も同様のメカニズムで説明できることがわかりました。これらの結果は不純物散乱による外因性のメカニズムによってフォノンの熱ホール効果が発現していることを示す初の実験結果で、フォノン熱ホール効果の解明につながる研究成果です。また、磁性絶縁体であるNa2Co2TeO6の磁気励起とも結合したフォノンーマグノン結合体でも同様のメカニズムが働いていることがわかったので、非磁性絶縁体に限らず、幅広い物質における共通のメカニズムであることを示唆する結果です。

fig1
図1(a)測定した非磁性絶縁体Na2Zn2TeO6の写真。(b)測定の模式図。縦方向と横方向の温度差を3つの温度計(T1, T2, T3)を用いて測定し、熱流方向と磁場の間の角度θを変えながら熱ホール伝導率を測定。(c)30 Kにおける熱ホール伝導率の磁場角度依存性。非磁性絶縁体Na2Zn2TeO6のデータが灰色(見やすさのために5倍して表示)で磁性絶縁体Na2Co2TeO6のデータが赤丸で示されている。点線はそれぞれの物質におけるc軸方向の磁化の角度依存性を示している。

研究助成

本研究は、日本学術振興会科学研究費 (JP22KF0111、JP23H01116)などの助成を受け行われました。

発表論文

  • 雑誌名:Scientific Reports
  • 論文タイトル:Field-angle dependence of phonon thermal Hall Effect in Na2X2TeO6 (X = Co, Zn)
  • 著者: Jian Yan, Hikaru Takeda, Haruka Iwahata, Jun-ichi Yamaura, Rajesh Kumar Ulaganathan, Kalaivanan Raju, Raman Sankar, and Minoru Yamashita
  • DOI:10.1038/s41598-025-20506-8

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(公開日: 2025年10月22日)