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カゴメ格子超伝導体で異常熱ホール効果の観測に成功

東京大学物性研究所の吉田大希大学院生、武田晃助教、山下穣准教授らは東京大学大学院新領域創成科学研究科の石原滉大助教、芝内孝禎教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のS. Wilson教授らのグループと共同で、カゴメ格子をもつ超伝導体CsV3Sb5において異常熱ホール効果をゼロ磁場で観測することに成功し、その異常熱ホール効果がカイラルクーパー対の不純物散乱の効果によって表れている可能性を提案しました。

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図1 左:カゴメ格子超伝導体CsV3Sb5の結晶構造の模式図。V原子を結ぶ赤線がカゴメ構造を形成していて、それにより様々な特異な物性が現れるていると期待されている。
右:観測された異常熱ホール伝導率を温度で割った量( κ xy ATHE /T )の温度依存性。カゴメ格子超伝導体のCsV3Sb5では超伝導転移温度( T c0 )以下で有限の値が観測されたが、通常超伝導体である2H-NbS2では観測されなかった。

金属が低温で示す超伝導状態は電子がクーパー対と呼ばれるペアを形成することで発現します。このクーパー対はさまざまな組み方が可能ですが、これまでに見つかったほとんどの超伝導体は時間的にも空間的にも対称な状態をとることが知られています。これに対して、時間反転対称性の破れた「カイラル超伝導」とよばれる状態が存在する可能性が理論的に提案されてきました。カイラル超伝導状態には通常は共存しない磁場と超伝導が共存する面白い性質があるだけでなく、粒子と反粒子が同一視されるマヨラナ準粒子や誤り耐性のある量子計算への応用が可能な非可換エニオンなどが現れる可能性も指摘されていて、その発見が世界的な競争となっています。これまでにさまざまな測定が試みられてきましたが、測定の問題などからカイラル超伝導状態の検出は困難でした。

そこで本研究では熱ホール測定によってカイラル超伝導体の検出を試みました。カイラル超伝導体では時間反転対称性が破れることで、ゼロ磁場でも自発的に熱ホール効果が現れ、その熱ホール伝導率がカイラル超伝導状態を特徴づけるチャーン数という整数で量子化されることが理論的に提案されていました。しかし、そもそもゼロ磁場での熱ホール効果の測定方法が不明だったので、これまで試みられてきませんでした。今回、その測定手法の確立とその検証を慎重に行うことで、カイラル超伝導体の候補物質であるCsV3Sb5において有限の熱ホール効果がゼロ磁場で観測される一方、通常の超伝導体である2H-NbS2では観測されないことを明らかにしました。これは超伝導体で初めての異常熱ホール効果の観測です。その熱ホール伝導率の大きさや温度依存性は量子化を予言した理論計算とは大きく異なるものでしたが、カイラルクーパー対が不純物によって散乱される効果を取り入れた理論計算に近いものであることがわかりました。今後、その詳細を明らかにしていくことで、カイラル超伝導体を検出するための新しい実験手法になることが期待されます。

研究助成

本研究は、日本学術振興会科学研究費 (JP22KF0111, JP23K25813, JP22H00105, and JP23H00089)、学術変革領域研究(A)「相関設計で挑む量子創発」(25H01248)等などの助成を受け行われました。

発表論文

  • 雑誌名:Science Advances
  • 論文タイトル:Observation of anomalous thermal Hall effect in a Kagome superconductor
  • 著者: Hiroki Yoshida, Hikaru Takeda, Jian Yan, Yui Kanemori, Brenden R. Ortiz, Yuzki M. Oey, Stephen D. Wilson, Marcin Konczykowski, Kota Ishihara, Takasada Shibauchi and Minoru Yamashita
  • DOI:10.1126/sciadv.adu2973

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(公開日: 2025年10月08日)