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カゴメ反強磁性体でスピンとフォノンの両方による熱ホール効果の観測に成功

東京大学物性研究所の赤澤仁寿(博士課程学生)と山下穣准教授、榊原俊郎教授、廣井善二教授、川島直輝教授らの研究グループは、Sungkyunkwan大学のJung Hoon Han教授らのグループと共同で、カゴメ反強磁性体Cdカペラサイト石(CdCu3(OH)6(NO3)2H2O、図1)において熱流が磁場によって曲げられる「熱ホール効果」の観測に成功し、スピンによる熱ホール効果とフォノンによるものの両方が存在することを明らかにしました。

図1 (a) Cdカペラサイト石(CdCu3(OH)6(NO3)2H2O)の結晶構造と試料の写真。
(b) 熱ホール測定の模式図。熱流( Q )に対して垂直方向に磁場( B )を印加して、 TL1 TL2 間の横方向温度差を計測する。

一般に「ホール効果」は金属中の電子の軌道が磁場によって曲げられる現象で、電子が流れないCdカペラサイト石のような絶縁体では存在しません。ところが、固体中のベリー位相などの量子力学的効果によって、絶縁体でも熱流を担うスピンやフォノンが磁場によって曲がる「熱ホール効果」が存在しうることが最新の研究によって明らかにされつつあります。当初はスピンによる熱ホール効果の影響が大きいと考えられていましたが、フォノンによる熱ホール効果が大きく表れる物質もあることがわかってきました。しかし、この2つの現象を引き起こしているメカニズムは不明で、その2つをどう区別したらよいかもわかっていませんでした。

図2 スピンによる熱ホール伝導率(κxy^(sp,2D))の縦熱伝導率(κ_xx)依存性。κ_xxの小さいところでは一定値に留まっているのに対して、κ_xxが大きくなると正の相関をもって上昇していて、熱ホール効果の起源が内因性(“Intrinsic”)機構による熱ホール効果から外因性(“Extrinsic”)機構へと移り変わっていることを示唆している。
図2 スピンによる熱ホール伝導率(κxysp,2D))の縦熱伝導率(κxx)依存性。κxxの小さいところでは一定値に留まっているのに対して、κxxが大きくなると正の相関をもって上昇していて、熱ホール効果の起源が内因性(“Intrinsic”)機構による熱ホール効果から外因性(“Extrinsic”)機構へと移り変わっていることを示唆している。
本研究では、カゴメ反強磁性体Cdカペラサイト石の熱輸送特性を詳しく調べたところ、非常に大きな熱ホール効果を示すことがわかりました。その結果、その磁場依存性を詳細に解析することが可能になり、15Tの高磁場領域ではフォノンによる熱ホール効果が支配的である一方、6T付近ではスピンによる熱ホール効果が大きくなっていることが明らかになりました。さらに、このスピンによる熱ホール効果について複数の試料における結果を比較したところ、スピンによる熱ホール効果は縦の熱伝導率の大きさと正の相関を持つことが分かりました(図2)。これらの結果は強磁性金属の異常ホール効果の結果と類似していて、カゴメ反強磁性における熱ホール効果の起源が熱伝導率の大きさによって内因性のメカニズムから外因性のものに移り変わっている可能性を示唆する重要な結果であると考えられます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費 (19H01809、19H01848、19K21842)助成を受け行われました。

発表雑誌

  • 雑誌: Physical Review X
  • タイトル: Thermal Hall Effects of Spins and Phonons in Kagome Antiferromagnet Cd-Kapellasite
  • 著者名: Masatoshi Akazawa, Masaaki Shimozawa, Shunichiro Kittaka, Toshiro Sakakibara, Ryutaro Okuma, Zenji Hiroi, Hyun-Yong Lee, Naoki Kawashima, Jung Hoon Han, Minoru Yamashita
  • DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevX.10.041059
(公開日: 2020年12月25日)