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ナノ構造のバンド構造可視化に成功 ―不完全な周期構造をもつ材料や「曲がった系」に電子バンドの概念を拡張―

金沢大学ナノマテリアル研究所の山口直也 助教、石井史之 教授、淡江大学物理学科のChi-Cheng Lee 准教授、東京大学物性研究所の尾崎泰助 教授らの国際共同研究グループは、有限サイズの巨大分子モデルに対する第一原理計算から非周期的なナノ材料の電子状態をバンド構造として可視化する新しい計算手法を開発しました。

ナノ材料は特異な電子状態を持ち、新機能創出が期待される材料群として注目されています。ナノ材料の電子状態解析技術の発展により実験的観察は進んだ一方で、従来の第一原理計算では並進対称性を欠くナノ構造に対しては解析が難しい場合が多く、理論的解析基盤が十分に整備されていませんでした。

本研究では、従来のバンドアンフォールディング法を拡張することで有限ナノ構造を扱える形式に再定式化し、計算プログラムとして実現しました。一連の計算手続きを「巨大分子バンドアンフォールディング法(GMBU法)」(図1)として位置づけ、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド(二硫化タングステン(WS2)(図2))、ビスマス/銀表面合金のナノフレークに適用しました。その結果、数ナノメートルスケールの有限モデルでも明瞭な電子バンド構造の可視化に成功しました。さらに湾曲構造にも適用可能であることを確認し、ナノ材料の電子構造解析における汎用的解析基盤としての有用性を示しました。

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図1 巨大分子バンドアンフォールディング(GMBU)法(図左側)とその応用(図右側)。左側の図は巨大分子の分子軌道からバンド構造を抽出する手続きについて、従来のバンドアンフォールディングとの比較しながら説明。右側にある図はグラフェンナノフレークを湾曲させた場合の適用例。湾曲が急になると、ディラックコーン様のバンド構造が消失する。発表論文(© American Chemical Society, 2025 CC BY 4.0 License)の図を転載。

GMBU法は、並進対称性が完全には成り立たない場合や、材料中に空間的な不均一性・ゆらぎが存在する場合でも、材料が局所的な周期性を有していれば大規模第一原理計算と統合することで、バンド理論の観点から電子構造を解析できる柔軟な計算手法であり、今後の広範な応用展開が見込まれます。本研究の成果は、高分解能化が進むナノARPESによる実験観測と理論解析の連携を促し、次世代のエレクトロニクスやスピントロニクス材料の設計の高度化に寄与すると期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会が発行する『Nano Letters』に2025年12月10日にWeb掲載されました。また、2025年12月10日発行の本誌の表紙(Supplementary Cover)に採用されています。

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図2 二硫化タングステン(WS2)ナノフレークへの巨大分子バンドアンフォールディング(GMBU)法の応用。(a) 9×9のサイズの環からなるWS2フレークモデルから抽出されたスピン分解バンド構造。青と赤の円は正規化スピンz偏極スペクトル重みの負符号と正符号をそれぞれ表し、各円の半径はスペクトル重みの絶対値の大きさを反映する。(b) (a)のK点近傍の拡大図。(c) (a)との比較のためのWS2シートのスピン分解されたバンド構造。フェルミ準位はエネルギー軸の原点に設定されている。(d) 9×9のサイズの環からなるWS2ナノフレークモデルの俯瞰図。灰色の球と黄色の球はそれぞれタングステン原子と硫黄原子を表し、棒は原子間の結合を示す。青い正方形は単位格子を表す。発表論文(© American Chemical Society, 2025 CC BY 4.0 License)の図を転載。
金沢大学発表のプレスリリース

発表論文

  • 雑誌名:Nano Letters
  • 論文タイトル:Band Unfolding in Finite Nanostructures: Visualizing Dirac, Spin−Valley, and Rashba Features
  • 著者: Naoya Yamaguchi,Sefty Yunitasari,Wardah Amalia,Chi-Cheng Lee,Taisuke Ozaki,Fumiyuki Ishii
  • DOI:10.1021/acs.nanolett.5c04721

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(公開日: 2025年12月11日)