松永研(M2)の小川宏太朗氏が理学系研究科研究奨励賞を受賞
松永研究室の小川宏太朗氏(受賞当時、修士課程2年生)が、令和6年度理学系研究科研究奨励賞(修士)を受賞しました。同賞は、東京大学大学院理学系研究科の修士課程の学生として学問研究に励み、優れた業績を挙げたものに授与されます。授賞式は3月24日、本郷キャンパスの小柴ホールにて行われました。
受賞対象となった研究は「空間光変調器を用いたマルチテラヘルツ帯偏光波形整形及び二色逆回り円偏光パルス生成法の開発」です。
小川氏は修士課程において、マルチテラヘルツ帯(周波数10–70 THz程度)で二色逆回り円偏光パルスを初めて実現し、しかもその電場軌跡をパソコン上から制御可能という独創的な光源を開発することに成功しました。
周波数がωと2ωで互いに逆回りの円偏光を重ねると、光電場は三つ葉模様の特異な軌跡を描きます。周波数比を2:3にすると星形になるなど、さまざまな軌跡を描くことが可能です。この特殊な二色逆回り円偏光を作ることは可視・近赤外域では容易であり、ガスや分子に対する研究が行われてきました。一方、近年では二色逆回り円偏光を利用した新たな固体物性制御について多くの興味深い理論提案が報告されています。そのためには赤外、特にマルチテラヘルツ帯で高強度の光パルスを作ることが重要です。しかしこの帯域の光学素子は毒性や吸湿性や帯域幅に問題があり、さらに非常に高額であるため、報告例はありませんでした。
同氏は、マルチプレート法による近赤外超短パルスの圧縮や、4f光学系と空間光変調器による波形整形といった光技術と、3回回転対称な非線形結晶特有の角運動量保存則といった非線形光学の専門的知識を駆使して、マルチテラヘルツ帯の光学素子を一切使うことなく、近赤外パルスをマルチテラヘルツ二色逆回り円光パルスへ直接変換するという画期的な手法を考案し、実証しました。これにより三つ葉模様や星形などの電場軌跡を自在に制御できる画期的な光源が実現しました。
さらに、マルチテラヘルツ電場を計測する広帯域電気光学サンプリングにおいて問題となっていた電気光学結晶の格子振動の影響を大幅に補正する解析方法についても独自に考案し、その補正の妥当性まで実証しました。この成果は、テラヘルツからマルチテラヘルツ帯にまたがる超広帯域電気光学サンプリングの実現に繋がるものです。
このように、修士課程において抜きんでた研究業績を次々と上げた点が高く評価されました。
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