三角格子反強磁性体 Rb₂Co(SeO₃)₂ においてスピン超固体が誘起する量子臨界性を発見
東京大学物性研究所の宮田敦彦准教授、楊卓特任助教を中心とする研究グループは、中国人民大学のWeiqiang Yu教授、Yi Cui准教授との国際共同研究により、三角格子反強磁性体Rb₂Co(SeO₃)₂ において、磁場によって誘起されるスピン超固体相を発見しました。さらに、この特異な量子状態に伴って現れる量子臨界挙動を明らかにしました。

磁化測定、核磁気共鳴(NMR)、磁気熱量効果(MCE)測定から決定された UUD 相、V 型スピン超固体(SS)相、および完全分極(FP)相の境界を、磁場–温度(H–T)相図として示す。背景色は断熱条件下での温度の磁場依存性 T(H) を表しており、臨界磁場 HC ≈ 19.5 T 付近で極小値を示す。
スピン超固体は、結晶の並進対称性の破れと超流動的な量子コヒーレンスが共存する量子状態であり、フラストレーションをもつ量子磁性体において長年探索されてきました。理論的には三角格子反強磁性体での実現が予測されていましたが、実験的同定や量子臨界性との関係はほとんど未解明でした。楊特任助教らは、強磁場下での磁化測定、核磁気共鳴(NMR)、磁気熱量効果(MCE)測定を組み合わせることで、Rb₂Co(SeO₃)₂ に現れる多彩な磁気相とその臨界的性質を詳細に調べました。
その結果、最大36 テスラ(T)までの磁場中で得られた磁気相図(図1)から、磁場誘起による一連の特異な量子相が明らかになりました。低磁場領域(2〜15.8 T)では、磁化の 1/3 プラトーと NMR のスピン格子緩和率 1/T₁ に見られる活性化型の温度依存性から、スピン励起にギャップをもつ UUD相の存在が確認されました。磁場をさらに強くすると、15.8〜18.5 Tの範囲でV型スピン超固体相(SS)が出現します。この相では、UUD相とは対照的にギャップレスなスピン励起が現れ、1/T₁ ∝ T⁵ というべき乗則の温度依存性が観測されました。これは、フラストレーションを有するイジング磁性体におけるスピン超固体に対する理論予測とよく一致しています。さらに、約19.5 Tを超えると、完全分極(FP)相への連続的な量子相転移が起こります。
また、断熱条件下で行ったパルス磁場 MCE 測定からは、臨界磁場近傍で顕著な量子臨界挙動が観測されました。磁気グリューナイゼン比 ΓH は低温で発散的な振る舞いを示し、臨界指数 νz ≈ 1 をもつ普遍的なスケーリング関数に従うことが分かりました。これは (3+2) 次元平均場型の普遍性クラスと整合的です。臨界磁場近傍では、競合する磁気秩序と量子臨界ゆらぎによってエントロピーが強く蓄積され、非常に大きな磁気熱量効果が生じます。特に注目すべきことに、この磁場誘起冷却効果はゼロ磁場での冷却効果を上回り、スピン超固体が高磁場極低温冷却材料として有望であることを示しています。
本研究成果は、Rb₂Co(SeO₃)₂を、スピン超固体、磁気フラストレーション、量子臨界性の相互作用を探るための有力な物質系として位置づけるものです。さらに、フラストレーション磁性体における競合する量子秩序がエントロピーゆらぎを増幅し、新たな熱力学応答を生み出す可能性を示しており、量子磁性を利用した新しい冷却技術への応用展開も期待されます。
発表論文
- 雑誌:npj Quantum Materials
- タイトル:Spin-supersolidity Induced Quantum Criticality in the Triangular-Lattice Antiferromagnet Rb2Co(SeO3)2
- 著者:Yi Cui, Zhanlong Wu, Zhongcen Sun, Kefan Du, Jun Luo, Shuo Li, Jie Yang, Jinchen Wang, Rui Zhou, Qian Chen, Yoshimitsu Kohama, Atsuhiko Miyata, Zhuo Yang, Rong Yu, and Weiqiang Yu
- DOI:10.1038/s41535-026-00881
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