楊卓氏(宮田研特任助教)が日本物理学会の若手奨励賞を受賞
宮田研究室の楊 卓 特任助教(元小濱研)が日本物理学会の第20回若手奨励賞(領域8:強相関電子系分野)を受賞しました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、学会をより活性化するために設立されたもので、37歳以下の若手研究者に授与されます。
受賞対象となった研究は「強磁場でのランダウ量子化における熱力学物性量の隠れた微細構造」です。
量子物質の中では、電子が特異な振る舞いをすることが知られています。その特徴を調べる代表的な方法の一つが「量子振動」です。磁場をかけると、電子のエネルギーが階段状(ランダウ準位)になり、それに応じて物理量が周期的に変化します。この現象を観測することで、電子の質量やスピンの性質など、物質の電子構造を詳しく知ることができます。
これまで量子振動の研究は、主に「磁化」や「電気抵抗」といった量を測る方法が中心でした。しかし、物質のエネルギーの出入りに直接関わる「比熱」の量子振動は、技術的な難しさもあり、ほとんど研究されてきませんでした。楊氏は、この未開拓の領域に踏み込み、グラファイトにおける比熱の量子振動を精密に測定しました[1]。
比熱測定の結果、磁場を変化させると、従来の理論が予測する「1つのピーク」ではなく、明瞭に分かれた「2つのピーク」が現れることがわかりました。これは、ランダウ準位が電子のエネルギー(フェルミ準位)と交差するタイミングに対応しており、電子のスピンに関係するランデのg因子や、有効質量を新しい方法で見積もる手がかりにもなります。
また、この二重ピークは比熱量子振動だけの特殊な現象ではありません。電子の状態密度に「ファン・ホーヴェ特異点」と呼ばれる山や谷がある物質では(例えばリフシッツ転移が起こる場合)、同じような特徴が現れる可能性があります。実際、最近ではトポロジカル近藤絶縁体 YbB12[2]でも類似の二重ピーク構造が観測され、絶縁体にも関わらず、内部に不思議なフェルミオン準粒子が潜んでいることが示唆されています。
本成果は、比熱という指標が、電子構造研究の強力なツールになりうることを示した点で大きな意義があります。特に、エキゾチックな準粒子を持つ量子物質の探索や、トポロジカル物性の理解に新しい視点を提供する研究として注目されています。
以上のように、量子振動の測定に対して、未開拓領域への取り組み、比熱が指標となる可能性を示したことが、今後の電子構造研究の発展に寄与する成果であることが評価されました。
関連論文
- Z. Yang et al., Nature Communications 14, 7006 (2023)
- Z. Yang et al., Nature Communications 15, 7801 (2024)
関連ページ
- 第20回(2026年)日本物理学会若手奨励賞 (Young Scientist Award of the Physical Society of Japan) 受賞者一覧|日本物理学会
- 日本物理学会 領域8(強相関電子系分野)
- 東京大学物性研究所 宮田研究室
- 東京大学物性研究所 小濱研究室