楊卓特任助教(宮田研)が第6回強磁場フォーラムフロンティア奨励賞を受賞
宮田研究室の楊卓特任助教は、第6回強磁場フォーラムフロンティア奨励賞を受賞しました。同賞は強磁場に関連した研究において新しい着想で優れた成果をあげ、強磁場分野の発展に貢献した若手研究者に贈られる賞です。授賞式は2024年12月18日、東京大学物性研究所にて行われました。
受賞対象となった研究は、「Hidden fine structure in the thermodynamic probing of Landau quantization at high magnetic field」です。
ランダウ量子化は、フェルミ面や電子バンド構造を調べる方法としてよく知られています。半導体では光学遷移(サイクロトロン共鳴)を通してランダウ準位を観測し、金属では磁化や抵抗の量子振動(それぞれde Haas–van Alphen(dHvA)効果とShubnikov–de Haas(SdH)効果)を測定します。さまざまな物質における電子物性の理解を深めるため、サイクロトロン共鳴、dHvA、SdHに代わる新たなランダウ準位測定法の確立が求められてきました。
比熱測定や磁気熱量効果測定などのエントロピー測定技術は、分解能が低いため量子振動の検出に用いられることはほとんどありませんでした。熱力学プローブにおける量子振動のいくつかの報告は、超伝導磁石を用いた量子限界から離れた低磁場領域に限られていました。楊特任助教は、最近開発された高磁場(~50 Tまで)でも測定可能となった高分解能比熱測定と磁気熱量効果測定を用いて、半金属グラファイトと近藤絶縁体YbB12の高磁場特性を調べました。両物質において、隠れた微細構造(ダブルピーク構造)を発見し、これらの微細構造の理論的解釈に成功しました。
グラファイトにおいて、楊特任助教が観測した二重ピーク構造は、量子振動の標準的な理論であるLifshitz-Kosevich(LK)理論では予測できず、この隠れた二重ピーク構造がフェルミ分布関数に由来することを明らかにしました。興味深いことに、この二重ピーク構造は電子の有効質量とランデのg因子に関係していることがわかり、これらの物理量をLK理論とは無関係に決定できるようになりました(関係論文[1])。さらに、自由電子を持たない近藤絶縁体YbB12の高磁場比熱においても、同様の二重ピーク構造が観測されました。磁気輸送、磁気熱量効果、強磁場比熱を組み合わせることで、YbB12で観測された二重ピーク構造は、単純な自由電子とは異なる電荷中性のフェルミオンに由来する可能性があることを提唱しました(関係論文[2])。この特異な電荷中性のフェルミオンの起源は謎のままですが、理論的な考察により複合エキシトンまたはマヨラナフェルミオンの可能性が指摘されています。
同研究は、電子物性の理解だけでなく、磁場下での物質特性のより広範な研究にも影響を与えています。例えば、カゴメ反強磁性体の最近の強磁場研究では、磁場誘起スピン液体の証拠として比熱の二重ピーク構造が示され、スピノンバンドに由来する電荷中性フェルミオンが示唆されました(arXiv:2409.05600)。また、これまで非フェルミ液体の証拠と考えられていた温度掃引における比熱の対数発散も、本研究ではダブルピーク構造とともに観測されました。この発見は、比熱の対数発散が頻繁に観測されるCeRu2Si2のような重い電子系の研究にも影響を与える可能性を示唆しています。
関連論文
- “Unveiling the double-peak structure of quantum oscillations in the specific heat”, Nature Communications 14, 7006 (2023)
- “Evidence for large thermodynamic signatures of in-gap fermionic quasiparticle states in a Kondo insulator”, Nature Communications 15, 7801 (2024)