藤本知宏氏(松永研D3)が理学系研究科研究奨励賞(博士)を受賞
松永研究室の藤本知宏氏(博士課程3年生)が、令和7年度理学系研究科研究奨励賞(博士)を受賞しました。同賞は、東京大学大学院理学系研究科の博士課程の学生として学問研究に励み、優れた業績を挙げたものに授与されます。授賞式は3月24日、本郷キャンパスの小柴ホールにて行われました。
受賞対象となった研究は「半導体GaAsの光誘起異常ホール効果に関するテラヘルツ分光実験及び理論的研究」です。
電場下の電子は電場と平行な向きに動きますが、磁場や磁化により時間反転対称性を破ると、電子は電場と垂直方向にも動くことが知られています(ホール効果)。磁場も磁化もない状況でも、円偏光を物質に照射すればホール効果を引き起こすことが可能です。この現象は光誘起異常ホール効果と呼ばれ、スピントロニクス分野におけるスピンと電流の変換機構(逆スピンホール効果)として、さらに近年ではフロケ理論をベースに発展した非平衡物性理論分野における固体のトポロジー制御の観点からも注目されています。
さらにごく最近、光誘起異常ホール効果にはもう一つ、電場誘起円偏光ガルバノ効果という全く別のメカニズムも強く関わることが判明し、従来の実験の解釈や理論計算との対応が根本的に揺らいでいます。しかし実験で観測される光誘起異常ホール効果の複雑な起源を特定する一般的な指針は全く定まっていませんでした。
藤本氏は、代表的半導体であるGaAsを舞台として、光誘起異常ホール効果の複雑なメカニズムを区別する一般的手法を開拓しました。時間分解テラヘルツ偏光計測で得られたデータに対し独自の2次元解析を行い、さらに複雑な量子力学計算も自ら実行することで、どの条件でどのメカニズムが強く発現するのかを明瞭に示しました。さらにその理解をスピントロニクス研究へと展開し、スピン流-電流の変換効率を表すスピンホール伝導度の周波数依存性の計測に世界で初めて成功しました。これは広い帯域で10 μrad(=0.0006 度)以下という世界最高級の計測精度を持つ実験系を自ら構築したことによるもので、これまで周波数ゼロ極限でしか測ることができなかったスピンホール伝導度の概念を拡張しました。この成果はスピン輸送材料の新たな特性評価手法として注目され、PhysicalReview Letters 誌でEditors’ suggestion に選出されました。さらに直近では、本手法を多体系の研究にも適用し、電子の幾何学的性質が束縛状態に大きな影響を与えることも実証しました。
同氏が開拓した実験及び解析手法は、スピン輸送材料を評価する極めて画期的な手法として、そして固体の幾何学的性質やトポロジーに関わる応答の制御に関連して極めて重要な成果であり、今後大きく広がることが期待されるという点が高く評価されました。
関連論文
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- "Light-induced inverse spin Hall effect and field-induced circular photogalvanic effect in GaAs revealed by two-dimensional terahertz Fourier analysis" Phys. Rev. B 111, L201201 (2025)
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