単原子層超伝導体に現れる異常金属状態での渦糸をミクロスケールで観測
東京大学物性研究所の佐藤優大大学院生(研究当時、現:ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン物理学部 博士研究員)、土師将裕助教、長谷川幸雄教授の研究グループは、物質・材料研究機構(NIMS)ナノアーキテクトニクス材料研究センター表面量子相物質グループの内橋隆グループリーダーら、およびマテリアル基盤研究センターの吉澤俊介主任研究員と共同で、原子レベルの厚さをもつ二次元超伝導体に現れる「異常金属状態」をマクロ・ミクロの両スケールから調べました。マクロ測定として表面電気伝導測定を行い、ミクロ測定として走査トンネル顕微鏡(STM)による局所観察の二者を組み合わせることで、異常金属状態における渦糸の振る舞いを直接観察し、その起源に新しい解釈を与えました。
二次元超伝導体の性質は、磁場や構造欠陥などの乱れに強く影響されます。近年、結晶性が高く乱れの少ない二次元超伝導体の作製が可能となり、磁場下で絶対零度近傍においても抵抗がゼロにならずに残る「異常金属状態」が観測され、注目を集めています。しかし、この現象の詳細なメカニズムには未解明な点が多く残されています。その主な理由として、乱れを精密に制御することの難しさや、これまでの研究が主として電気伝導測定などのマクロ測定に限られていたことが挙げられます。
本研究では、超伝導の微視的状態を調べる強力な手法である走査トンネル顕微鏡(STM)を用い、高い結晶性をもつ二次元超伝導体である半導体基板上のPb原子層超伝導体を評価しました。基板表面に形成されるステップ構造は超伝導に対する乱れとして作用します。本研究では、基板の切り出し角を変えることでステップ密度を調整し、乱れの強さを系統的に制御しました。そのうえで、異なるステップ密度をもつ原子層超伝導体について、面直磁場下での超伝導特性を、表面電気伝導測定(マクロ測定)とSTM測定(ミクロ測定)の両方から調べました。
電気伝導測定では、磁場 25–100 mT の範囲において、絶対零度近傍で抵抗がゼロに達せず飽和する「異常金属状態」を観測しました(図1右)。一方で、同条件下で行ったSTMによるトンネル分光測定では、局在した渦糸が観察されました(図1左)。さらに、磁場を増加させると、渦糸があたかも消失した渦糸液体状態が現れることがわかりました。この渦糸液体領域は、乱れが強いほど広い磁場範囲で観測され、乱れによって誘起される超伝導位相ゆらぎで説明されます。

電気伝導測定とSTM観察を比較した結果、異常金属状態においては渦糸は液化していないことが明らかになりました。これは、異常金属状態の起源を渦糸の量子的運動(量子渦糸液体)とする従来の一般的な解釈とは異なります(図2右)。
本研究の結果は、乱れの少ない二次元超伝導体では渦糸のピン止め力が非常に弱いため、電気伝導測定で流れるわずかな測定電流でも渦糸の運動が誘起されるピニングフリー状態が生じることで、異常金属状態が説明できることを示しています(図2左)。

本研究により、二次元超伝導体における磁場下・絶対零度近傍での渦糸の振る舞いをミクロスケールで明らかにしました。さらに、これまでマクロ測定のみから議論されてきた異常金属状態が、外的要因によって生じている可能性を示しました。本研究で実証した「表面原子層超伝導体における乱れの制御」と「STMによるミクロ測定と電気伝導によるマクロ測定の融合」は、二次元超伝導の量子相転移に関する未解決問題を探究するための新しい研究プラットフォームとなることが期待されます。
論文情報
- 雑誌名:Science Advances
- 論文タイトル:Stable vortices in the anomalous metallic state observed on monoatomic-layer superconductors
- 著者:Yudai Sato, Masahiro Haze, Ryohei Nemoto, Wenxuan Qian, Shunsuke Yoshizawa, Takashi Uchihashi, and Yukio Hasegawa
- DOI: 10.1126/sciadv.adu9610
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