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磁場に対して強固な二次元超伝導体の発見

東京大学物性研究所の佐藤優大大学院生、土師将裕助教、長谷川幸雄教授のグループは物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 表面量子相物質グループの根本諒平研究員、Wenxuan Qian大学院生、内橋隆グループリーダーと先端材料解析研究拠点の吉澤俊介主任研究員とともに、非常に幅狭な間隔に並んだステップ構造を持つSi(111)微傾斜基板上に形成させたPb原子層超伝導薄膜において、磁場に対して強固な超伝導が実現されることを明らかにしました。

図1 (下図)1.1°切り出し角のSi(111)微傾斜基板上のPb原子層のSTM像。表面は平均ステップ間隔が16nmのステップ構造になる。(上図)表面電気伝導測定(左)と走査トンネル分光測定(右)結果。

二次元超伝導体は、構造欠陥などの乱れに弱く、その増加に伴い超伝導-絶縁体転移を生じることが知られています。近年、高い結晶性を有し乱れの少ない二次元超伝導体が作製されるようになり、磁場による転移近傍で特異な量子相が見出され、注目を集めています。しかし、その詳細に関しては未知の部分が多く、その理由として、乱れの制御の困難さや、従来評価が電気伝導測定などのマクロ測定に限定されることが挙げられてきました。

本研究では、超伝導の微視的評価として強力な手法である走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、結晶性の高い二次元超伝導体であるSi(111)基板上のPb原子層超伝導体の評価を行いました。基板表面上に形成されるステップが超伝導に対して乱れとして作用するので、基板の切り出し角を変えることで、ステップ密度すなわち乱れを系統的に制御できます(図1)。本研究では、さまざまなステップ密度を持つ原子層超伝導体に対して、面直磁場下での超伝導特性を表面電気伝導測定と渦糸などの局所的な超伝導特性をSTM測定により評価しました。

その結果、絶対零度近傍において、ステップ密度の大きな薄膜ほど、より高い磁場でも超伝導状態が残ることが判りました。またSTMによるトンネル分光像から、ステップ平行方向に伸びた渦糸が観察されました(図2)。これらの特徴は、超伝導膜を横切る複数のステップが電子状態の結合を妨げ、超伝導を特徴づける長さであるコヒーレンス長がステップ垂直方向に抑制されることにより説明されます。コヒーレンス長の抑制が臨界磁場の増大を誘起するという理論的に期待される振る舞いと定量的に一致し、ステップ導入によって臨界磁場増大が実現していることが明らかになりました。

fig2

図2 (a) 微傾斜面のSTM像と面直磁場120 mT下で取得したゼロバイアスコンダクタンス(ZBC)分布図。ZBCの高まりとして現れる渦糸がステップ垂直方向に伸びている。(b) ステップの少ない平坦面で観測される通常の渦糸と微傾斜面で観測される渦糸の模式図。通常の渦糸では、中心で超伝導が完全に破壊されるが、微傾斜面の渦糸は超伝導が残っている。また、ステップ垂直方向にコヒーレンス長が抑制されている。

本研究で実証した乱れの制御性と超伝導の微視的評価は、二次元超伝導の量子相転移現象における未解決な物理を探求する新たなプラットフォームとなることが期待されます。

発表論文

  • 雑誌名:Physical Review Letters
  • 論文タイトル: Squeezed Abrikosov-Josephson vortex in atomic-layer Pb superconductors formed on vicinal Si(111) substrates
  • 著者: Yudai Sato, Masahiro Haze, Ryohei Nemoto, Wenxuan Qian, Shunsuke Yoshizawa, Takashi Uchihashi, and Yukio Hasegawa
  • DOI:10.1103/PhysRevLett.130.106002

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(公開日: 2023年03月13日)