「有機伝導体が示す電荷ガラス状態からの二次元結晶化」がJPS Hot Topicsに選出
吉見一慶特任研究員、埼玉大学の谷口弘三教授、道村真司准教授、小林拓矢助教のグループが2025年8月に発表した”Metastable Phase with Enhanced Spin Susceptibility Located between Charge Glass Phase and Charge Order Phase in a Layered Organic Conductor”がJPSのHot Topicsに選ばれました。Hot Topicsは日本物理学会が刊行している3つの英文論文誌であるJPSJ、PTEP、JPS Conf. Proc.に掲載された通常の論文、招待論文、特集論文等の中で注目すべきものが取り上げられます。
Hot Topics 解説記事
“Two-Dimensional Charge Ordering Emerging from the Charge Glass State” JPS Hot Topics 5, 046
電荷のフラストレーション効果を持つ層状有機伝導体において観測される「電荷ガラス状態」の経時変化が、通常のガラスに見られる単純な結晶化ではなく、二次元的な結晶化であることが明らかにされました。これまでの研究では、電気抵抗測定、核磁気共鳴(NMR)測定、ラマン分光測定など、電荷に敏感な手法によってその性質が調べられてきました。これに対し今回の研究では、電荷の自由度とは異なる観点から磁化率に着目し、電荷ガラス状態の経時変化を詳細に解析しました。その結果、電荷ガラス相とも、既知の三次元的な電荷秩序相とも異なる、磁化率がそれらよりも大きな値を示す第三の相の存在が見出されました。さらに、電気抵抗率の異方性の測定および過去のX線回折実験の知見を総合的に検討した結果、この新たな相は二次元的な電荷秩序状態であることがわかりました。ガラス状態は、現在においても多くの未解明な側面を残す状態であり、本研究で明らかとなった「電荷ガラスからの二次元電荷秩序状態への相変化」は、ガラス状態の理解を進展させる新たな手がかりとなるものであり、低次元系におけるガラスの物理や、低次元ガラスなど将来的な応用分野への波及効果も期待されます。
埼玉大学発表のプレスリリース発表論文
- 掲載誌:Journal of the Physical Society of Japan, 94, 083703 (2025).
- 論文名:Metastable Phase with Enhanced Spin Susceptibility Located between Charge Glass Phase and Charge Order Phase in a Layered Organic Conductor
- 著者名:Hiroki Shiibashi, Keita Higuchi, Tsukasa Hachiya, Shinji Michimura, Takuya Kobayashi, Ryo Murasaki, Kazuyoshi Yoshimi, and Hiromi Taniguchi
- DOI:https://doi.org/10.7566/JPSJ.94.083703
関連ページ
- 東京大学物性研究所 吉見チーム
- JPS Hot Topicsウェブサイト
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