植物共生細菌の光受容型水素イオンポンプタンパク質が、植物ホルモンにより活性化されることを発見
東京大学物性研究所の呂 子琨氏(博士後期課程1年)、寳本 俊輝元特任研究員(現:東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構)、井上 圭一准教授は、細菌の持つ光駆動型の水素イオン(プロトン、H+)ポンプタンパク質である微生物ロドプシンの活性が、植物ホルモンの一種であるインドール酢酸などの弱酸によって大きく向上することを発見しました。
微生物ロドプシンは細菌や古細菌(アーキア)、藻類、カビ類などの広汎な微生物や巨大ウイルスなどが持つ、太陽光の光エネルギーを使って、イオン輸送などさまざまな生物学的な機能を示す膜タンパク質です。中でも、自然界に最も多く見られる微生物ロドプシンは、光のエネルギーによって細胞内から細胞外へH+を汲み出す、H+ポンプとしてはたらくタイプのものです。そして、この活動によって作り出されるH+の濃度勾配が細胞内のエネルギー通貨として知られるアデノシン三リン酸などの合成を駆動し、微生物の活動の促進に寄与することが知られています。
これまでシュードモナス(Pseudomonas)属などの植物共生細菌でも、同様のH+ポンプ型の微生物ロドプシンを持つことが知られていましたが、他の生物種と比べて極端にH+の輸送速度が遅く、エネルギー生産を行う上ではあまり大きな利点がないと考えられ、なぜ植物共生細菌の微生物ロドプシンがこういった性質を持つのか、その理由は明らかになっていませんでした。
このような中、本研究では植物共生細菌の一種である、Pseudomonas putidaの持つ微生物ロドプシンの表面に、植物ホルモンの一種であるインドール酢酸が結合すると、そのH+の輸送速度が大きく向上することが新たに見出されました。この結果からは、普段P. putidaの活動量が低いときはロドプシンの活性も抑えられているのに対し、共生相手である植物からの植物ホルモンをP. putidaが感知し、自身の活動レベルを上げるのに多くのエネルギーが必要となる場合に、エネルギー生産源として重要なロドプシンの活性を向上させていることが示唆されます。
このような植物ホルモンによるH+ポンプ型微生物ロドプシンの活性化は、同じく植物に共生するカビ(真菌)のロドプシンでは10年程前から知られていましたが、今回進化的に大きく異なった細菌のロドプシンにおいて同様の機構が見出されたことは、植物との共生関係を最適化するために、それぞれの種のロドプシンで、同様の性質を持つための分子的な進化が独立に起こったことを示唆しています。
P. putidaは生物農薬やバイオメディエーションへの利用が期待されている非常に注目度の高い細菌であり、本研究はその生存において従来知られていなかった太陽光の利用方法があることを初めて明らかにしたものとなります。そして今回の発見は、光と植物、植物共生細菌の間の新たな関係を示唆するものであり、今後P. putidaの産業・農業応用に向けて、本研究で得られた知見が新たな貢献をすることが期待されます。
論文情報
- 雑誌名 : Journal of Physical Chemistry B
- 題名 : Weak organic acid effect of bacterial light-driven proton pumping rhodopsin
- 著者名 : Zikun Lyu, Shunki Takaramoto, Keiichi Inoue
- DOI:10.1021/acs.jpcb.4c06891
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