井上圭一 准教授が2024 IUPB Finsen Lecture Awardを受賞
井上圭一 准教授が国際光生物学協会(International Union of Photobiology)の2024 IUPB Finsen Lecture Awardを受賞しました。この賞は、光科学分野において、画期的な成果または同様の業績を達成した有望な研究者に授与されるもので、同協会のExecutive Committeeの審査によって選ばれるものです。8月27日にオーストラリア・パースで開催された18th International Congress on Photobiologyにて授与式が行われました。
井上氏は、細菌から動物まで幅広い生物が持つ、光受容型の膜タンパク質を対象とした研究を行っています。光を吸収したロドプシンが、どの様に多様な生理機能を生み出すのか、物理化学、構造生物学、電気生理学、生物情報学、理論科学など、異なる学問領域の手法を融合させた研究を数多くの分子に対して行うことで、それらのメカニズムを詳細に明らかにしてきました。一方で、近年のゲノム・メタゲノム解析技術の進展に伴って、多様な生物のゲノム上に無数に存在することが明らかとなってきているロドプシン遺伝子の中から、特に新奇な配列を持つものに着目することで、外向きナトリウムポンプ型ロドプシンや内向きプロトンポンプ型ロドプシン、さらには第3のロドプシンファミリーであるヘリオロドプシンをはじめ、新しい機能や物性を持つロドプシンを多数発見しました。加えて、機械学習などの先端的技術を取り入れながら、これら天然のロドプシンのアミノ酸配列を改変することで、オプトジェネティクス(光遺伝学)における神経操作や視覚再生医療などにおいて高い有用性が期待される、新機能を持つ分子や機能性がより向上した分子の開発にも成功しています。この他、本賞について国際光生物学協会への井上氏の推薦を執り行った日本光生物学協会(Photobiology Association of Japan, PAJ)への長年の貢献などが認められ、今回の受賞に至りました。
関連論文
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- Inoue, K. et al.: Nat. Commun., 7, 13415 (2016)
- Pushkarev, A. et al.: Nature, 558, 595-599 (2018)
- Inoue, K. et al.: Sci. Adv., 6, eaaz2441 (2020)
- Rozenberg, A. et al.: Nat. Struct. Mol. Biol., 29, 592-603 (2022)
- Chazan, A. et al.: Nature, 615, 535-540 (2023)
- Shibata, K. et al.: J. Am. Chem. Soc., 145, 10779-10789 (2023)
- Kataoka, C. et al.: J. Phys. Chem. Lett., 10, 5117-5121 (2019)
- Mannen, K. et al.: J. Mol. Biol., 436, 168331 (2023)
- Inoue, K.: J. Phys. Chem. B, 127, 9215-9222 (2023)
- Inoue, K. et al.: J. Am. Chem. Soc., 137, 3291-3299 (2015)
- Inoue, K. et al.: Nat. Commun., 10, 1993 (2019)
- Karasuyama, M. et al.: Sci. Rep., 8, 15580 (2018)
- Inoue, K. et al.: Commun. Biol., 4, 362 (2021)
関連ページ
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