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井上圭一准教授がサー・マーティン・ウッド賞を受賞

優れた研究を行っている若手研究者に贈られる第21回サー・マーティン・ウッド賞を井上圭一准教授が受賞しました。この賞は、英国の科学機器メーカーであるオックスフォード・インストゥルメンツ社より寄せられた寄附金を基に、研究奨励を目的として創設され、凝縮系科学(固体物理学、無機・有機固体化学、材料科学、表面物理など)において日本で優れた業績を挙げた40歳以下の若手研究者に贈られます。11月22日に駐日英国大使館で行われた 第22回ミレニアム・サイエンス・フォーラムにて授与されました。

授賞式

受賞式の様子。左:井上氏、右:Sue Kinoshita 駐日英国大使館 公使参事官

受賞対象となった研究は「新奇なレチナールタンパク質の発見と機能解析」です。

レチナールタンパク質(ロドプシン)はレチナール色素を発色団とする、光受容型の膜タンパク質ファミリーです。レチナールタンパク質には、大きく分けてヒトを含む動物の視覚に関わる動物ロドプシンと、細菌などの微生物が持ちイオン輸送などに関わる微生物ロドプシンの2種類があることが知られ、長年その光機能発現機構について数多くの研究がなされてきました。しかし近年のゲノム解析技術の急激な発展により、広範な生物種から10,000種を超えるレチナールタンパク質の遺伝子が次々と発見され、従来考えられていたよりもはるかに大きな多様性を持つことが示唆されていますが、その機能を含め分子論的な理解はほとんどなされていませんでした。

その中で井上氏は大腸菌やホ乳類細胞を用いたタンパク質異種発現技術によって、機能未知のロドプシン遺伝子を網羅的に調べ、外向きナトリウムポンプ型ロドプシンや内向きプロトンポンプ型ロドプシンなど、これまでにない新奇機能を持つ分子を数多く報告しました。またさらに分光計測を用いた物理化学的研究や、X線結晶構造解析による構造生物学的研究によって、その機能発現メカニズムについても詳細に明らかにしました。そしてそれらの知見をもとに分子改変を行うことで、近年高い注目を浴びている生体内の神経活動の光操作技術であるオプトジェネティクス(光遺伝学)への応用に向けた新規分子ツール開発にも成功しています。さらに最近では従来の動物および微生物のどちらのグループとも異なる、第3のレチナールタンパク質ファミリーであるヘリオロドプシンの存在を国際共同研究を通じて明らかにしました。

これら長年のレチナールタンパク質に関する研究が高く評価され、受賞にいたりました。今後はレチナールタンパク質の関わる生命現象についてのさらなる研究の発展や、新たなオプトジェネティクス技術の開発が期待されます。

関連論文

  • [1] Inoue, K., Ono, H., Abe-Yoshizumi, R., Yoshizawa, S., Ito, H., Kogure, K. & Kandori, H. “A light-driven sodium ion pump in marine bacteria.” Nat. Commun. 4, 1678 (2013).
  • [2] Inoue, K., Ito, S., Kato, Y., Nomura, Y., Shibata, M., Uchihashi, T., Tsunoda, S. P. & Kandori, H. “A natural light-driven inward proton pump.” Nat. Commun. 7, 13415 (2016).
  • [3] Pushkarev, A†., Inoue, K.†, Larom, S., Flores-Uribe, J., Singh, M., Konno, M., Tomida, S., Ito, S., Nakamura, R., Tsunoda, S. P., Philosof, A., Sharon, I., Yutin, N., Koonin, E. V., Kandori, H. & Béjà, O. “A distinct abundant group of microbial rhodopsins discovered using functional metagenomics.” Nature 558, 595-599, (2018). (†: Equally contribution)

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(公開日: 2019年12月04日)