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単純な酸化物で見つかった「強い」ディラック電子の鎖 ―対称性に守られ、特性が失われないディラック電子―

東京大学物性研究所の安倍崇仁大学院生、平井大悟郎助教、廣井善二教授は物質材料研究機構の宇治進也教授、大阪大学産業科学研究所およびスピントロニクス学術連携研究教育センターの小口多美夫教授と共同で、単純な酸化物であるReO2(Re:レニウム、O:酸素)において磁場中で物質の電気抵抗が22000%も増大することを明らかにし、その原因が「強い」ディラック電子に由来していることを明らかにしました。

黒鉛の単原子層(グラフェン)などの物質では、電子が「ディラック電子」と呼ばれるあたかも質量を持たない粒子のように伝導することから、大きな注目を集めています(2010年ノーベル物理学賞)。これらの物質では、超高易動度や巨大磁気抵抗が実現するため、省エネルギーで高速応答するエレクトロニクス材料としての応用が期待されています。しかし、通常のディラック電子の性質はスピン軌道相互作用というすべての物質に備わる相互作用によって失われてしまうと考えられてきました。最近、「砂時計型」の電子構造(図1右)をもつ物質で現れる「強い」ディラック電子は、スピン軌道相互作用が働いてもその性質が失われないことから注目されています。

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図1  ReO2の結晶の写真(左)と砂時計分散によって作られるディラックループ鎖の模式図(右)

2017年に単純なレニウム酸化物であるReO2において砂時計型の電子構造が存在することが指摘され、さらに「ディラックループ鎖」という特殊な電子構造(図1右)の存在が予想されました。ReO2は古くから知られる物質ですが、これまでそのようなディラック電子の存在を示唆するような実験結果は得られていません。

東京大学物性研究所と物質材料研究機構、大阪大学産業科学研究所およびスピントロニクス学術連携研究教育センターの研究グループは、ReO2の純良な単結晶を作製し(図1左)、これらを用いた物性測定の結果、磁場中で電気抵抗が22000%増大するというディラック電子に特徴的な物性を観測しました。電子状態計算から確かに砂時計型の電子構造が存在し、観測された特異な物性は「強い」ディラック電子に由来している可能性が高いことを明らかにしました。

レニウムでは強いスピン軌道相互作用が働くためディラック電子の性質を示さないと考えられてきました。今回の研究成果は従来の常識を覆し、スピン軌道相互作用が強い物質においても砂時計型のバンド構造に由来するディラック電子の性質は失われないことを示しました。今後の研究において、特殊な表面状態や輸送特性の角度依存性などにディラックループ鎖に由来する新奇物性の観測が期待されます。

今回の成果は、特異な性質が期待される「強い」ディラック電子をもつ材料の探索指針を与えるものです。また、多くのディラック電子を有する物質は空気中ですぐに劣化してしまいますが、ReO2のように安定な酸化物でもディラック電子系材料が開発できることを示したことに意義があります。

発表論文

  • 雑誌名:Journal of the Physical Society of Japan
  • 論文タイトル:Extremely Large Magnetoresistance in the Hourglass Dirac Loop Chain Metal β-ReO2
  • 著者: Daigorou Hirai, Takahito Anbai, Shinya Uji, Tamio Oguchi, and Zenji Hiroi
  • DOI: https://doi.org/10.7566/JPSJ.90.094708

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(公開日: 2021年09月27日)