廣井研の平井大悟郎助教、日本物理学会若手奨励賞を受賞
廣井研究室の平井大悟郎助教が、日本物理学会若手奨励賞(領域8:強相関電子系分野)を受賞しました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者を奨励し、学会をより活性化するために設けられているものです。授与式は、3月17日の日本物理学会第75回年次大会で行われる予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、中止となりました。
受賞対象となった研究は「5d遷移⾦属化合物の物質開発と強相関電⼦物性の開拓」です。
5d遷移金属化合物は、強いスピン軌道相互作用と電子相関を併せ持つ系として、特異な量子状態の実現に大きな関心が持たれています。しかし、これまでの5d電子系の物質開発や研究は、毒性や空気不安定性、価数の制御の困難さなどの問題から、もっぱらIr(イリジウム)化合物に限られていました。平井氏は、比較的未開拓であったRe(レニウム)化合物に着目し、原料の精製を含めて合成法を精査し、物質に応じて独自に工夫した合成を行うことによって、新物質の合成や純良単結晶の育成に成功し、5d化合物のユニークな物性を明らかにしました。特に、複合アニオン化合物Ca3ReO5Cl2による「多色性」[1] と「フラストレーションによる次元低下」[2]、ダブル・ペロブスカイト化合物Ba2MgReO6の「多極子秩序」[3]というユニークな物性の発見によって、5d電子系を舞台とした強相関電子物性研究の可能性を広げました。
この多色性の起源となるRe イオンのもつスピン間の相互作用にはフラストレーションが生じ、次元低下によって磁気秩序が大きく抑制されることも分かりました[2]。またスピンと軌道が結合することで生じる多極子秩序の兆候を確認し[3]、純良単結晶を用いたX線回折実験によって初めて秩序状態が観測されました。これらの業績は、複数の国際会議でもポスター賞を受賞し、高い評価を受けています。
関連論文
- [1] D. Hirai and Z. Hiroi, “Successive Symmetry Breaking in a Jeff = 2 Quartet in the Spin Orbit Coupled Insulator Ba2MgReO6“, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 064712 (2019).
- [2] D. Hirai, K. Nawa, M. Kawamura, T. Misawa, and Z. Hiroi, “One dimensionalization by Geometrical Frustration in the Anisotropic Triangular Lattice of the 5d Quantum Antiferromagnet Ca3ReO5Cl2“, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 044708 (2019).
- [3] D. Hirai, T. Yajima, D. Nishio-Hamane, C. Kim, H. Akiyama, M. Kawamura, T. Misawa, N. Abe, H. Arima, and Z. Hiroi, “‘Visible’ 5d Orbital States in a Pleochroic Oxychloride”, J. Am. Chem. Soc. 139, 10784 (2017).
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