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第17回物性研所所長賞、多田靖啓 助教、平井大悟郎 助教、菱沼有美氏に

3月9日、物性研究所にて第17回(令和元年度)物性研究所所長賞授与式が行われました。物性研で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰するISSP学術奨励賞には、押川研助教の多田靖啓氏廣井研助教の平井大悟郎氏が選ばれ、技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するISSP柏賞は榊原研究室、学生・教職員相談室特任専門職員の菱沼有美氏にそれぞれ授与されました。
物性研究所 所長賞 歴代受賞者

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左から:森 初果 所長、菱沼 有美氏、平井 大悟郎氏、多田 靖啓氏、吉信 淳 副所長

ISSP学術奨励賞

多田 靖啓 氏「カイラル超流動体の軌道角運動量の理論的解明」

クーパー対が軌道角運動量を持つカイラル超流動・超伝導は、液体ヘリウム3で確認されている他、Sr2RuO4などの超伝導体でも実現が議論されている重要な問題です。カイラル超流動体では、各クーパー対が軌道角運動量を持つため、全粒子数Nに比例する巨視的な軌道角運動量を持つことが期待できますが、常流動相のフェルミ液体に基づく描像では、フェルミ面近傍の粒子のみ寄与するという議論もあり、極めて基本的な問題であるにも関わらず、長年未解決でした。

多田氏は、平均場理論の範囲内で、円形の急峻な井戸型ポテンシャル中のカイラル超流動体を系統的に考察し、カイラルp波超流動体の全軌道角運動量は素朴な期待通り、全てのクーパー対が角運動量ħを持つことに相当する、巨視的な値/2を取ることを示しました[1]。一方、d波以上のカイラル超流動体では、同じ設定でも全軌道角運動量が強く抑制されることを見出しました。これは、同氏の研究以前には全く予想されていなかった結論でしたが、その後他の研究者による計算でも確認され、関連分野の研究者の間で広く認知されています。さらに、その後カイラル超流動体の全軌道角運動量が境界条件に依存することを明らかにし、このことは全軌道角運動量が熱力学量ではないという事実に起因すると論じました[2]。また、密度行列くりこみ群を用いた数値計算により、平均場近似による結論が強相関系でも成立することを示しました。これらの研究は、長年謎として残されていた物性物理学における基本的な問題の解明に大きく寄与するとして評価されました。

関連論文
  • [1] Y. Tada, W. Nie, and M. Oshikawa, Phys. Rev. Lett. 114, 195301 (2015).
  • [2] Y. Tada, Phys. Rev. B 97, 214523 (2018)
  • [3] 多田靖啓 「カイラル超流動体の軌道角運動量は何によって決まるのか?」(最近の研究から)日本物理学会誌74巻2号 93頁 (2019)

平井 大悟郎 氏「5d電子系における物質開発と電子物性の開拓」

5d遷移金属化合物は、強いスピン軌道相互作用と電子相関を併せ持つ系として、特異な量子状態の実現に大きな関心が持たれています。しかし、これまでの5d電子系の物質開発や研究は、毒性や空気不安定性、価数の制御の困難さなどの問題から、もっぱらIr(イリジウム)化合物に限られていました。平井氏は、比較的未開拓であったRe(レニウム)化合物に着目し、原料の精製を含めて合成法を精査し、物質に応じて独自に工夫した合成を行うことによって、新物質の合成や純良単結晶の育成に成功し、5d化合物のユニークな物性を明らかにしました。特に、複合アニオン化合物Ca3ReO5Cl2による「多色性」[1] と「フラストレーションによる次元低下」[2]、ダブル・ペロブスカイト化合物Ba2MgReO6の「多極子秩序」[3]というユニークな物性の発見によって、5d電子系研究の可能性を広げました。

この多色性の起源となるRe イオンのもつスピン間の相互作用にはフラストレーションが生じ、次元低下によって磁気秩序が大きく抑制されることも分かりました[2]。またスピンと軌道がエンタングルした5d1電子系で期待される多極子秩序の兆候を確認し[3]、X線回折実験によって初めて秩序状態が観測されました。これらの業績は、複数の国際会議のポスター賞や物理学会 領域8(強相関電子系分野)の若手奨励賞の受賞などでも、高い評価を受けています。

関連論文
  • [1]“Visible’ 5 d Orbital States in a Pleochroic Oxychloride”, D. Hirai , T. Yajima, D.Nishio Hamane, C. Kim, H. Akiyama, M. Kawamura, T. Misawa, N. Abe, H. Arima, and Z. Hiroi, J. Am. Chem. Soc., 139, 10784, (2017)
  • [2]“One dimensionalization by Geometrical Frustration in the Anisotropic Triangular Lattice of the 5d Quantum Antiferromagnet Ca3ReO5Cl2”, D. Hirai, Nawa, M.Kawamura, T. Misawa, and Z. Hiroi, J. Phys. Soc. Jpn., 88 , 044708, (2019)
  • [3]“Successive Symmetry Breaking in a J eff = 3/2 Quartet in the Spin Orbit Coupled Insulator Ba2MgReO6”, D Hirai, and Hiroi, J. Phys. Soc. Jpn., 88, 064712, (2019)
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ISSP柏賞

菱沼 有美 氏「相談室業務や所内親睦に対する多大な貢献」

菱沼氏は、研究室業務を本業とする傍ら、2007年度から相談室の相談員を担当してきました。近年は年間延べ200件以上の面談を行い、学生や教職員に対して適切な助言を行ってきました。また同氏は相談員としてより高度に対応するために、臨床心理士と公認心理師の資格を取得しました。相談室業務以外にも、I♡caféの世話人として所内の交流や親睦にも長年尽くしてきました。このような物性研に対する貢献度の高さから、本賞が授与されました。

(公開日: 2020年03月10日)