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亜酸化銅励起子の基礎物性の理論計算:「歪誘起エネルギーシフト」と「スピン転換機構」

日程 : 2025年11月4日(火) 1:00 pm - 2:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第2セミナー室 (A612) 講師 : 灰田悠希 所属 : 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 世話人 : 松永隆佑 (63375)
e-mail: matsunaga@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

亜酸化銅(Cu2O)単結晶中の励起子ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)は、多体ボース粒子の開放系におけるBECを理解するための格好の舞台である。2022年に、希釈冷凍機による冷却を通じて温度100 mK台の1sパラ励起子集団が生成され、歪トラップ中で安定なBECが実現された[1]。この際、1s-2p吸収イメージングにより、凝縮体自体の信号が初めて観測された。現在、1s-2p吸収イメージの時間分解測定を通じて、凝縮体の形成・緩和ダイナミクスを調べる実験が進行中である。しかし、このような実験から励起子BECの本質に迫るには、励起子の基礎物性の徹底的な理解が前提となる。この観点から、私は以下2テーマに取り組んできた。
1. 取得される吸収イメージをもとに系を正確に把握するには、歪トラップ中の1s-2p吸収スペクトルの位置依存性の評価が必要である。まず、任意歪下の任意の励起子状態を扱える理論的枠組みを構築した。次に、変形ポテンシャルの値を決定した。これにより、任意歪下の2p励起子のエネルギー・波動関数を計算できるようになり、歪トラップ中の1s-2p吸収スペクトルの位置依存性の評価が可能になった。
2. パラ励起子は、光生成可能なオルソ励起子からのスピン反転(オルソ-パラ転換)により生成する。オルソ-パラ転換は約50年前から知られており[2]、複数のモデルが提案されてきたが、どのモデルもフォノンによりスピンが反転することを説明できなかった。私は「バンドの非放物性」に着目することで、音響フォノンによりスピン反転が起きることを明らかにした。また、転換レートの実験値をほぼ定量的に説明できた。

[1] Y. Morita, K. Yoshioka and M. Kuwata-Gonokami, Nat. Commun. 13, 5388 (2022).
[2] F. I. Kreingold and V. L. Makarov, Fiz. Tverd. Tela 15, 1307 (1973) [Sov. Phys.—Solid State 15, 890 (1973)].


(公開日: 2025年10月01日)