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第8回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術 業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。歴代受賞者は東京大学物性研究所所長賞のページで紹介しています。
平成22年度は次の3名の方が第8回の受賞者と決定しました。授賞式は4月28日に物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスカフェテリアにおいてお祝いの会が開催されました。


第8回ISSP学術奨励賞
山内 徹氏
(物質設計評価施設 技術専門職員)
「ベータバナジウムブロンズの高圧物性研究」

山内氏は、2002 年にベータバナジウムブロンズβ-Na0.33V2O5 において、圧力誘起の電荷整列絶縁体―超伝導転移(バナジウム酸化物でははじめての超伝導)を見出して以来、一連のベータバナジウムブロンズβ-A1/3V2O5(A = Li, Na, Ag, Ca, Sr, Pb)の高圧物性研究に取り組んできた。2008 年にはその集大成となる論文がフィジカルレビュー誌に掲載された。擬一次元導体ベータバナジウムブロンズはPb 物質を除いて常圧下では電荷秩序型の金属絶縁体転移を示し、高温金属相の基底状態を知るには高圧下での物性測定が不可欠であった。山内氏は自前で単結晶作成を行い、高圧物性測定装置の立ち上げとそれを使っての高圧物性測定をほぼ単独で行い、数多くの成果を挙てきた。山内氏は、ベータバナジウムブロンズの圧力―温度相図を明らかにし、ベータバナジウムブロンズにおいては多彩な基底状態が競合していることを明らかにするなど、その業績はISSP 学術奨励賞に十分相応しい。

第8回ISSP学術奨励賞
佐藤 昌利氏
(物性理論研究部門 甲元研究室 助教)
「トポロジカル超伝導体の研究」

最近になり、量子ホール系で用いられていたトポロジカルな手法が超伝導体・超流動体の研究でも有効であることが明らかになり、現在、活発に研究されている。佐藤氏は、この「トポロジカル超伝導体」とよばれる新しい潮流の初期の段階から、中心的研究者の一人として、活発に研究を行い、重要な成果を挙げてきた。
佐藤氏は、マヨラナ型励起とよばれるトポロジカル超伝導体特有の励起に関する研究を行ってきた。マヨラナ型励起とは、自分自身が反粒子である新しい種類のディラック型励起で、トポロジカル量子計算などに応用があると考えられている。従来、マヨラナ型励起を持つ例としては、3He A 相や、Sr2RuO4 のようなフルギャップであるスピン3 重項超伝導体(あるいは超流動体)しか知られていなかったが、この一連の研究により、s 波超伝導体のようなスピン1 重項超伝導体や、d 波超伝導体のようなノードのある超伝導体、あるいは空間反転対称性の破れた超伝導体など様々な超伝導体においても、スピン軌道相互作用によってマヨラナ型励起が現れることを明らかにした。この成果は、マヨラナ型励起(あるいはトポロジカル量子計算)の実現可能性を大きく拡げる結果として世界的に注目を集めている。更に、スピン3 重項超伝導体特有のトポロジカルな性質を明らかにした対象論文の研究が挙げられる。佐藤氏は、スピン3 重項超伝導体のトポロジカル数の系統的な研究を初めて行い、その結果、常伝導状態のフェルミ面の構造のみから、その表面に現れるアンドレーフ束縛状態の構造が予言できるとした。これは、トポロジカルな手法により初めて分かる性質であり、スピン1 重項超伝導体では見られない性質である。また、この結果は、超伝導状態の表面状態によって、スピン1 重項超伝導状態とスピン3 重項超伝導状態が区別可能であることを意味しており、スピン3 重項超伝導状態の新しい同定法へ応用可能である。これらは、ISSP 学術奨励賞に相応しい成果である。

第8回ISSP柏賞
川村 義久氏
(中性子科学研究施設  技術職員)
「物性研中性子科学研究の全国共同利用の推進と中性子散乱装置の保守・管理・高度化に対する貢献」

川村氏は、平成20年3月31日をもって退職となった。川村氏は、昭和45年(1970年)4月1日付で物性研に採用されて以来、実に40年間の長きにわたり中性子の技術職員として、多岐に渡る中性子散乱実験装置や冷凍機等のアクセサリーの保守・管理等の職務に高い責任感を持って当たり、共同利用の推進のため多大な貢献をしてきた。装置の高度化に際しては、経験を生かし、技術面から適切なアドバイスをするとともに、作業に積極的に参加した。日本原子力研究開発機構においては、川村氏は、研究用原子炉に設置される実験装置の設置・改造に関わる困難極まる許認可手続きを、広い人脈を活かした交渉によって円滑に進めてきた。また、原子炉内の大工事の実施に際しても、川村氏の放射線遮蔽に関する知識と経験に加えて、気さくな人柄や細やかな気配りによって、安全で円滑な作業を進めることができた。若手職員の指導にも積極的にあたり、優秀で勤勉な後継者を育ててきた。例年、施設で開催している夏のバーベキュー大会には、川村氏の暖かい人柄にひかれて、日本原子力研究開発機構や東大原子力専攻関係者をはじめ共同利用研究者・業者・近隣住民の区別無く、100人を超える人々が参加し、川村氏が作ってくれる冬のアンコウ鍋を楽しみにして東海に実験に来る研究者も全国に大勢できた。このように長年に亘り中性子の技術職員として求められる職務以上をこなし、物性研の全国共同利用の発展に多大な貢献をした。

“左から、佐藤昌利氏、家 所長、川村義久氏、山内徹氏”
(公開日: 2011年05月11日)