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巨大熱電性能の謎に迫る ― 擬一次元物質Ta₄SiTe₄の電子状態を解明

東京大学物性研究所の一色弘成ISSPリサーチフェロー(日本原子力研究開発機構 任期付研究員)、田畑歩大学院生(橋坂研M2、熊本大学からの研究実習生)、堀尾眞史助教、大熊隆太郎助教、今井三貴学術専門職員、松田巌教授、小森文夫名誉教授、大谷義近名誉教授、岡本佳比古教授、橋坂昌幸准教授らの研究グループは、熊本大学の原正大准教授、日本原子力研究開発機構の木俣基研究副主幹、高エネルギー加速器研究機構、名古屋大学との共同研究により、擬一次元物質Ta₄SiTe₄の電子状態と電気伝導特性を実験的に明らかにし、その優れた熱電性能を支える物理的な仕組みについて新たな知見を得ました。

本研究は、2026年4月に発足した東京大学物性研究所 量子ナノ物性研究センター(Q-NanoLab)を中心に、異なる専門分野の研究者が連携し、物質合成、微細加工技術、および先端的な計測技術を組み合わせて実現した研究成果です。センターが推進する所内横断型の研究連携と共同利用を通じて得られた、最初の論文成果となります。

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擬一次元物質Ta4SiTe4の形状と微細加工試料

熱と電気を相互に変換する熱電材料は、廃熱を利用したエネルギー回収などへの応用が期待されています。高い熱電性能を実現するための有力なアプローチの一つが、電子の運動を特定の方向に制限する「低次元化」です。Ta₄SiTe₄は、原子が鎖状に連なった擬一次元的な結晶構造を持つ物質であり、岡本教授らの先行研究によって、室温以下で極めて大きな熱電出力因子を示すことが見出されていました。しかし、この物質は針状の微小結晶として得られるため、電子状態や電気伝導の方向依存性を詳しく調べることが難しく、巨大な熱電性能を生み出す物理的な仕組みは十分に解明されていませんでした。

本研究では、微小領域の電子状態を直接観測できるマイクロ集光角度分解光電子分光(マイクロARPES)と、集束イオンビーム(FIB)加工によって作製した微小試料の電気輸送測定を組み合わせ、Ta₄SiTe₄の電子状態と電気伝導の低次元性を定量的に評価しました。さらに、電子密度、移動度の異方性、熱電特性に関係するエネルギーギャップについても実験的な知見を得ました。

マイクロARPES測定では、Ta₄SiTe₄の電子状態が結晶構造を反映した一次元的な特徴を示すことが確認されました。一方、FIB加工試料を用いた電気輸送測定では、原子鎖に垂直な方向の電気抵抗率は平行な方向の約5倍にとどまり、電子状態の一次元的な特徴に比べて、電気伝導の異方性は予想外に小さいことが明らかになりました。

この結果は、Ta₄SiTe₄の優れた熱電性能を理解するうえで重要な手がかりとなります。一般に、一次元性の強い物質では、原子鎖上の欠陥や不純物によって電子の流れが妨げられやすくなります。しかし、Ta₄SiTe₄では原子鎖間にも一定の電気伝導が存在するため、ある程度の欠陥や不純物が存在しても良好な電気伝導を維持できる可能性があります。すなわち、電子状態の一次元的な特徴を持ちながら、電気伝導の一次元性が極端には強くないことが、大きな熱電効果と良好な電気伝導の両立に寄与していると考えられます。

本研究は、擬一次元物質Ta₄SiTe₄の電子状態と電気伝導特性を多角的に解明し、高い熱電性能を実現するためには、単に電子の一次元性を強めるだけでなく、原子鎖間の電子伝導とのバランスが重要である可能性を示しました。この知見は、新たな高性能熱電材料の設計指針につながることが期待されます。

また本研究は、物質開発、ナノ微細加工、先端計測を有機的に結びつけるQ-NanoLabの研究体制が、実際の研究成果につながった事例でもあります。今後も、所内外の多様な専門分野の研究者との連携と共同利用を通じて、新しい量子物質・機能性材料の研究を推進していきます。

発表論文

  • 雑誌名:Physical Review Materials
  • 論文タイトル:Weak Electronic One-Dimensionality of Ta4SiTe4 Underlying its Giant Thermoelectric Performance
  • 著者:Hironari Isshiki*, Ayumu Tabata, Masafumi Horio, Motoi Kimata, Youichi Yamakawa, Ryutaro Okuma, Miki Imai, Fumiya Matsunaga, Koshi Takenaka, Kenichi Ozawa, YoshiChika Otani, Fumio Komori, Iwao Matsuda, Masahiro Hara, Yoshihiko Okamoto, Masayuki Hashisaka(*責任著者)
  • DOI:https://doi.org/10.1103/653b-z2m9

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(公開日: 2026年11月05日)