Home >  ニュース > ヒトiPS細胞由来神経細胞培養への極性の異なる帯電性ナノバブル技術の応用

ヒトiPS細胞由来神経細胞培養への極性の異なる帯電性ナノバブル技術の応用

東京大学物性研究所の林久美子教授と、大平猛特任研究員、原田慈久教授らの研究グループは、マイナス帯電性及び不可能と考えられていたプラス帯電性のナノバブルをヒトiPS細胞由来神経細胞の培養培地中で安定的に生成することに成功し、ナノバブルが細胞に及ぼす影響を調査しました(図1)。

fig1
図1 実験の概要図。細胞培養培地中に帯電性ナノバブルを安定的に生成し、ヒトiPS細胞由来神経細胞の培養へ応用した。

帯電性ナノバブルは、直径1 µm未満のガスを内包する球状構造体であり、高い表面電荷、長期安定性、さらに崩壊時に殺菌性を有するラジカルを生成する能力を特徴とします。これらの特性から、排水処理など幅広い分野での応用が期待されています。しかし、中性付近(pH 7前後)の条件では安定性や表面電荷の維持が難しく、細胞生物学的応用はこれまで限定的でした。本研究では、大平猛特任研究員らの帯電性活性板接触法によるナノバブル生成の特許技術を用いて、世界で初めてヒトiPSC由来神経細胞の培養培地(pH 7.4)中において、プラスに帯電したナノバブルおよびマイナスに帯電したナノバブルの生成に成功しました。ナノバブルを含む培地は、既知の殺菌効果と同様にiPS細胞に細胞死を誘導しましたが、プラス帯電性ナノバブルはマイナス帯電性ナノバブルよりも強い細胞死誘導効果を示すことが明らかになりました(図2)。この差異の要因として、細胞膜が一般にマイナスに帯電しているためプラス帯電性ナノバブルとの相互作用が起こりやすい可能性や、正負の帯電状態の違いによってナノバブル崩壊時のラジカル生成特性が異なる可能性などが考えられます。

fig2
図2 (1) 生細胞および死細胞の顕微鏡画像の例(左)。生死判定用蛍光試薬で染色した蛍光顕微鏡画像(右)。 (2) ナノバブル混入培地を用いたヒトiPS細胞由来神経幹細胞の顕微鏡像(ナノバブル添加後0日目から3日目まで)。通常培養条件では細胞は増殖したが、ナノバブル存在下では細胞死の誘導により細胞数が減少した。

さらに、研究グループは、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞とそこから分化させた神経細胞の2種類の細胞においてナノバブル感受性を比較しました。その結果、ナノバブルは神経幹細胞に対しては顕著に細胞死を誘導する一方、分化後の神経細胞には比較的影響が小さいことが分かりました。今後は、帯電性ナノバブルが誘導する細胞死の分子機構を解明するとともに、細胞種ごとに感受性が異なる理由を明らかにしていきます。またiPS細胞培養においては未分化細胞(不要細胞)の混入が課題となっていますが、帯電性ナノバブルを含む培地を用いて未分化細胞を選択的に除去する技術の確立を目指します。これにより、iPS細胞の高純度培養を実現し、再生医療分野への貢献が期待されます。

本成果は、2026年3月6日に国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

発表論文

  • 雑誌名:Scientific Reports
  • 論文タイトル:Stable charged nanobubble with distinct polarities in culture media differentially affect the vaibility of human iPSC-derived neurons
  • 著者:Yifan Liu, Takeshi Ohdaira*, Emi Kitakata, Michael A. Silverman, Jhunam Sidhu, Jun Okubo, Yoshihisa Harada, Kumiko Hayashi*
  • DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-41156-4

関連ページ

(公開日: 2026年03月12日)