佐藤哲也(加藤研D3)が日本物理学会の学生優秀発表賞を受賞
加藤研究室の佐藤哲也氏(博士課程3年)は、9月16日〜19日にかけて広島大学にて開催された日本物理学会第80回(2025年)年次大会において、学生優秀発表賞(領域3:磁性)を受賞しました。同賞は日本物理学会において若手の優秀な発表を奨励することを目的に設けられたものです。
受賞対象となった発表タイトルは「スクイーズド強磁性体における磁化の非平衡ゆらぎとファノ因子」です。
佐藤氏らは、強磁性体内部の量子的な揺らぎである「スピンショットノイズ」を、光だけを使って観測する理論手法を開発してきました。スピンショットノイズは、磁性体が環境に放出する角運動量(スピン)のゆらぎを表す重要な物理量ですが、従来の測定法ではスピンノイズを電気信号に変換する必要があり、純粋なスピンショットノイズの信号を揺らぎと分離することが困難でした。これに対し、同氏らは、超短パルスレーザーを磁性体に当ててマグノンを非平衡状態に励起し、その緩和過程を別のプローブレーザーで検出する手法を理論的に提案しました。本手法は、追加の検出素子を必要とせず、スピンショットノイズを直接観測できる点が特徴です。
今回の受賞対象となった研究では、本手法が他の系での非平衡スピン緩和を調べる上でも有用であることを示すため、「マグノンスクイーズド状態」と呼ばれる特殊な量子状態に注目しました。スクイーズド状態とは、ハイゼンベルクの不確定性原理の制約の中で、ある方向のノイズを犠牲にすることで、別の方向のノイズを抑え込んだ量子的な状態を指します。 研究チームは、この状態でスピンショットノイズを計算し、得られるファノ因子は、低温において、通常の強磁性体における値 (ℏ) からずれることことを明らかにしました。これは、スクイーズド状態ではスピンが1回のスピン緩和で放出する角運動量がℏと異なることを示しており、マグノンスクイーズド状態の素励起が通常のマグノンと異なった角運動量を持っていることを反映しています。さらに、量子性を示す指標である g(2)因子もポンプ直後には1を下回り、マグノンスクイーズド状態の量子的な性質を本手法で観測できる可能性が示されました。
本成果は、さまざまな磁性体の非平衡緩和を調べるプラットフォームとして有用であることを示しており、本手法は、これまで電気的測定では困難であったスピンショットノイズの測定を可能にし、スピン角運動量の量子性の観測に資すると期待されます。この革新的な研究および、発表が評価され、同賞の受賞に至りました。
関連論文
- 雑誌名:Physical Review Letters
- 題 名:Fluctuations in Spin Dynamics Excited by Pulsed Light
- 著者名:Tetsuya Sato, Shinichi Watanabe, Mamoru Matsuo, and Takeo Kato*
- DOI:10.1103/PhysRevLett.134.106702
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