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第14回ISSP学術奨励賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。歴代受賞者は東京大学物性研究所所長賞のページで紹介しています。

平成28年度は次の2名の方が第14回ISSP学術奨励賞の受賞者と決定しました。授賞式は平成29年3月13日に物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスプラザ憩においてお祝いの会が開催されました。

左から、上田顕氏、渡辺宙志氏、瀧川仁所長
左から、上田顕氏、渡辺宙志氏、瀧川仁所長

第14回ISSP学術奨励賞
上田 顕 氏(凝縮系物性研究部門 森研究室 助教)
「水素自由度を有する新しい有機伝導体の開発と物性・機能開拓」

上田氏は、独自の物質設計指針を基に水素自由度を有する新奇な有機伝導体の開発・構造物性研究に取り組み、その中に特異な電荷秩序転移を示す系を見出して物性・機能性の開拓に成功した。上田氏が着目した水素自由度、すなわち水素結合中の水素のダイナミクスは、ある一群の誘電体における相転移の起源として固体物理分野でも研究されているものの、これまでは電気伝導性や磁性などの電子物性研究とはほとんど無縁の存在であった。上田氏は、設計した分子を強い水素結合で連結させることによって有機伝導体結晶に水素自由度を導入し、さらに水素/重水素置換を行いこれに変調を与えることで、π電子物性に対する水素自由度の効果、連動性を明らかにした。重水素体では、185 Kで重水素が局在化し、それを引き金とした電荷秩序転移・磁性変化が起こった。この転移は、クーロン相互作用に起因する従来の相転移とは根本的に異なる新現象である。その一方で、軽水素体においては同様の相転移は極低温まで観測されず、水素の位置は揺らぎ続け、系は常磁性的である。このように、上田氏は水素の量子性・ダイナミクスを制御することによってπ電子物性を制御できることを世界で初めて見いだした。上田氏のこれらの成果は、分子性機能性結晶が示す物性研究を大きく発展させたものであり、ISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

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第14回ISSP学術奨励賞
渡辺 宙志 氏(物質設計評価施設 川島研究室 助教)
「気泡核のオストワルド成長」

渡辺氏は、流体動力学分野で最も標準的であるレナードジョーンズ流体の約7億粒子からなる系の分子動力学シミュレーションを実行し、気泡発生の初期過程の様相を微視的に明らかにした。一般的な流体における気泡成長の初期過程は、基礎的学術的に興味が持たれているばかりでなく、タービンやスクリューなど工業的に広く使われる機械部品の効率や耐久性を決定する主要な要因となっており、応用の観点からもその解明と詳細な解析が重要である。しかし、従来は連続体モデルに対する平均場的取扱いからスケーリング則が推測されていたのみで、微視的な検証が不十分であり、その適用範囲も明らかではなかった。本研究では、大規模シミュレーションによって、気泡数の漸近的時間依存性に関するスケーリング則が広い領域ではじめて確認された。また、標準的な物理系に関して長年正当性が確立していなかった古典的理論が、実は正確な予言を与えていたことを微視的な観点から実証した。研究対象である気泡生成はシャンパンの抜栓時に生じるなど身近な現象でもあるため、スミソニアン博物館を含め複数の機関から取材申し込みがあり、国際的にも注目された。このように、渡辺氏の成果は学術的価値が高いばかりでなくその応用範囲も広く、ISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

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(公開日: 2017年03月13日)