室谷悠太助教が LEES 2025 conferenceの Best Poster Presentation Awardを受賞
松永研究室の室谷悠太助教が固体の低エネルギー電磁応答に関する国際会議The Low-Energy Electrodynamics in Solids (LEES) 2025において優秀なポスター発表を行った研究者に授与されるthe Best Poster Presentation Awardを受賞しました。
受賞対象となった発表タイトルは「Electric field-induced Berry curvature as an origin of light-induced anomalous Hall effect」です。
円偏光を固体に照射すると、外部磁場なしでもバイアス電場と直交方向に電流が流れるという異常Hall効果が生じます。これは光誘起異常Hall効果と呼ばれており、どんな物質でも円偏光を照射すれば一般に起こりうる普遍的な現象ですが、その微視的なメカニズムは非常に複雑でよくわかっていませんでした。従来の研究では、スピントロニクス分野における逆スピンホール効果や、円偏光で物質のベリー曲率を制御するフロッケエンジニアリングの観点から注目されていました。しかし最近の室谷氏らの実験及び理論的考察により、光誘起異常Hall効果を計測しようとすると、それと同時に生じる電場誘起インジェクション電流、つまりバイアス電場によって空間反転対称性が破れたところに円偏光を照射することで起こる2次の非線形電流が大きな応答として観測されることが判明しました。
インジェクション電流はもともと空間反転対称性が破れた物質が示す応答として知られており、電子状態の幾何学的構造と深く関連するため近年盛んに研究されています。しかし、一般的な物質がバイアス電場によって示す電場誘起インジェクション電流が幾何学的性質やベリー曲率とどう関係するかは全く分かっていませんでした。
室谷氏は、円偏光下で固体が示す3次の非線形電流について理論的に考察することで、電場誘起インジェクション電流が、(i)バイアス電場によって作られるバンド分解ベリー曲率、(ii)バイアス電場とベリー接続の結合によるエネルギーシフトの二つによって引き起こされることを導出することに成功しました。これによって電場誘起インジェクション電流という現象の理解が深まるとともに、光誘起異常Hall効果という複雑な現象を理論的に統一的に記述する枠組みが作られました。この成果が固体の低エネルギー応答を議論する国際会議において高く評価され、ポスター賞を受賞しました。
関連論文
- "Photovoltaic Hall Effect by Electric Field-Induced Berry Curvature and Energy Shift", Yuta Murotani, Tomohiro Fujimoto, Ryusuke Matsunaga, arXiv:2505.06078
- "Unified theory of photovoltaic Hall effect by field- and light-induced Berry curvatures", Yuta Murotani, Tomohiro Fujimoto, Ryusuke Matsunaga, arXiv:2505.07189
関連ページ
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- 東京大学物性研究所 松永研究室
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