土師将裕氏(長谷川研助教)が日本物理学会若手奨励賞を受賞
長谷川研究室の土師将裕助教が、第19回(2025年)日本物理学会若手奨励賞(領域9)を受賞しました。同賞は、将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励するため、優れた研究を行なった若手研究者に贈られる賞です。同賞の受賞にあたり、3月20日に日本物理学会2025年春季大会(オンライン)で受賞講演を行いました。
受賞対象となった研究は「走査トンネル顕微鏡による表面磁性の静的・動的特性の研究」です。
土師助教は、走査トンネル顕微鏡(STM)およびスピン偏極STMを駆使し、表面における磁性の静的および動的特性を原子スケールで観察・解析する手法を高度に発展させ、表面磁性のミクロな理解に顕著な貢献を果たしました。近年急激に進展しているスピントロニクスに伴い、ナノスケールの磁気構造やスピンダイナミクスの解明がデバイス応用の観点からも強く求められています。これに対し同氏は、以下の3つの顕著な成果を挙げました:
- カイラル磁性の実証的検出
タングステン基板上に成長させたMn薄膜において、スピン偏極STMを用い、磁気構造のらせん性とそのカイラリティを明瞭に可視化した。外部磁場により探針磁化方向を制御するアプローチを取り入れ、カイラルな磁気秩序が形成されていることを実証した。この成果は、磁気デバイスにおける駆動方向制御の観点からも極めて重要である。 - 強磁性STM探針の新規製法と実用性の確立
従来難しかったスピン偏極STM探針の作製について、電気化学エッチングを用いてバルク強磁性材料から直接探針を作る手法を取り入れた。これにより、実験者の熟練度に依存せず、安定かつ高再現性で測定が可能となり、今後の応用研究への道を大きく開いた。 - 量子スピン制御への応用展開
電子スピン共鳴STM(ESR-STM)に高周波パルス技術と位相制御系を導入することで、表面吸着原子スピンの量子的な操作・読み出しに成功した。特に、ラビ振動やスピンの回転位相制御を実現し、スピン量子ビットの普遍的制御に道を拓いた。この成果は、量子情報処理分野へのSTM応用を切り開くものである。
以上のように、磁性のミクロ構造理解に新たな視点を提供し、スピントロニクスや量子情報科学などの発展に寄与する成果であることが評価されました。