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褐虫藻の光受容体ロドプシンの独特な光化学的性質のしくみ — 構成的アプローチにより、その構造的要因を明らかに—

東京大学物性研究所の永田崇助教、川﨑佑真氏(元井上研究室大学院生)、今野雅恵研究員、井上圭一准教授は、光に応答するタンパク質・ロドプシンの構造を改変することで、ユニークな光反応特性を生み出すアミノ酸の組み合わせを特定することに成功しました。この成果は、最近褐虫藻など海洋性の藻類から発見された、ユニークなロドプシンの性質を再現し、その性質をもたらす構造的要因を明らかにしたものです。

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図1 4つのアミノ酸を“模倣”することでベストロドプシンのユニークな性質の一部を再現

ロドプシンは動物の視覚を担うタンパク質として広く知られていますが、微生物にも存在し、色素分子・レチナールを結合することで光を吸収し、細胞にさまざまな応答を引き起こす光受容タンパク質として働きます。その中で、2022年には、井上グループを含む国際共同研究により、サンゴに共生する褐虫藻など、多様な海洋性の単細胞藻類からベストロドプシン(Bestrhodopsin)と呼ばれる新しいロドプシングループが発見されました(2022年プレスリリース)。ベストロドプシンは、一般的なロドプシンと比べ、吸収する光の波長が著しく赤色側(長波長側)にシフトしており、さらにユニークなレチナール色素の光異性化反応特性を示すことで注目されています。しかし、こうした性質をもたらすタンパク質の構造的な仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。

本研究では、典型的な微生物ロドプシンである「Gloeobacter ロドプシン(GR)」に対して、ベストロドプシンに特徴的なレチナール近傍のアミノ酸残基を導入することで、ベストロドプシン独自の光化学的性質をもたらすメカニズムを明らかにすることを試みました。これは、特定のタンパク質の構成要素を、別タンパク質へ加えることで、対象とする分子の性質を再現し、どの構造因子がその性質に関わっているかを探る「構成的アプローチ」と呼ばれる研究手法です。今回は、GRにさまざまなベストロドプシンのアミノ酸を導入した変異体を比較することで、吸収波長のシフトや光反応の変化が生じる条件を詳細に調べました。

その結果、GRのレチナール近傍にある3つのアミノ酸をベストロドプシンのものに変えると、GRの吸収波長が大きく赤色側にシフトし、また従来とは異なる位置の二重結合でレチナールの光異性化が起きるようになることが明らかになりました。さらにもう1つのアミノ酸を置き換えると、これがレチナール周囲の空間の大きさに影響を与え、レチナールが異性化するためのスペースが生まれることで、光反応の効率が大きく向上しました。これらはいずれも、ベストロドプシンの性質の本質を再現したものであり、ベストロドプシンのユニークな性質をもたらす構造的要因についてこれまでにない新たな実験的な知見が得られました。

本研究は、光受容タンパク質の構造と機能の関係、さらにはそれをもとにした生物の光利用の在り方を理解する上で新たな道を開くものであり、将来的には、さまざまな疾患を光で治療する方法の開発や、生体研究に役立つ遺伝子ツールの開発にも貢献することが期待されます。

発表論文

  • 雑誌名:The Journal of Physical Chemistry Letters
  • 論文タイトル:A Constructive Study Based on Gloeobacter Rhodopsin to Explore the Origin of Extreme Redshift and Non-Typical Isomerization of Bestrhodopsin
  • 著者: Takashi Nagata, Yuma Kawasaki, Masae Konno, Keiichi Inoue
  • DOI:10.1021/acs.jpclett.5c00869

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(公開日: 2025年06月23日)