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励起子絶縁体から半金属への変化に伴い出現する擬ギャップ状態を観測

東京大学物性研究所の岡﨑 浩三 准教授、鈴木 剛 助教、板谷 治郎 准教授らと、早稲田大学先進理工学部の溝川 貴司 教授の研究グループは、フェムト秒赤外パルスレーザーをポンプ光、その高次高調波の極紫外パルスをプローブ光とする時間分解角度分解光電子分光を用いた詳細な測定により、Ta2NiSe5が光励起によって励起子絶縁体から半金属に遷移する途中で価電子帯と伝導帯の間に擬ギャップ(不完全なエネルギーギャップ)を持つ特異な量子状態が現れることを発見しました。本研究成果は、Journal of the Physical Society of Japan電子版に、2023年5月25日付で掲載され、注目論文(Papers of Editors’ Choice)に選ばれました。

図1.励起子絶縁体から擬ギャップ状態を経て半金属相に至る光誘起相転移の観測結果

図1.励起子絶縁体から擬ギャップ状態を経て半金属相に至る光誘起相転移の観測結果
赤線が時間分解光電子分光の測定結果、青線がエネルギー分解能によるブロードニングを除去して抽出したスペクトル関数、緑線はそのスペクトル関数をエネルギー分解能で畳み込んで測定結果とほぼ一致すること確認した結果。ポンプ光照射後、170fsでは金属化しているのに対して、70fsでは擬ギャップが存在する。
JPSJ Editors Choice

伝導帯における電子と価電子帯における正孔がクーロン引力によって束縛された状態を励起子と呼びます。通常、励起子は光で電子・正孔対を励起することによって生成されますが、励起子が自発的に生成されることでより大きなバンドギャップが生じて安定化することも考えられ、そのような物質を励起子絶縁体と呼びます。Ta2NiSe5は励起子絶縁体の1つであり、この物質にフェムト秒レーザーを照射すると半金属になることが本研究グループによって発見されていました。

今回、本研究グループは同物質のNiを10%Coに置換したTa2Ni0.9Co0.1Se5を作成し、フェムト秒レーザーをポンプ光として照射、半金属に転移する過程でエネルギーギャップが不完全になる特異な「擬ギャップ状態」が現れることを発見しました。

光誘起相転移による物性変化、物性制御は、将来的には新しいタイプの光量子デバイスへと応用されることが期待されています。

発表論文

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(公開日: 2023年11月27日)