二つの新鉱物、「桐生石」および「群馬石」を発見
東京大学物性研究所の浜根大輔 技術専門職員と名古屋大学大学院工学研究科の矢島健 准教授(研究当時:物性研究所 助教)は、鉱物研究家の猪狩一晟 氏、大木良弥 氏、堀浩文 氏、小原祥裕 氏と共同で、群馬県桐生市の山中から二種類の新鉱物を発見し、それぞれ「桐生石(学名:Kiryuite、図1)」および「群馬石(学名:Gunmaite、図2)」と命名しました。桐生石および群馬石は国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名分類委員会から新種(=新鉱物)として正式に承認され、研究成果はJournal of Mineralogical and Petrological Sciencesに、2023年10月12日付けで掲載されました。
足尾山地はマンガン(Mn)資源が広範に分布する地域として古くから知られ、マンガン鉱山が方々にありました。しかし、群馬県桐生市の山中にはマンガンではなくタングステン(W)を目的に開発された、当地としては極めて異質の鉱山がかつて存在したことが地質図から読み取れます。研究チームはその場に特異な地質作用が記録されている可能性を考え、当該地域を詳しく調査したところ、二つの石英脈から個別に新鉱物を発見しました。
一つ目の石英脈から発見された新鉱物は、白色から乳白色の箔状または板状集合体として産出し、桐生市にちなんで桐生石と命名されました。NaMnAl(PO4)F3を理想化学組成として、単斜晶系の対称性を持つ鉱物です。既存鉱物との対比として、ヴィータニエミ石:NaCaAl(PO4)F3のカルシウム(Ca)をマンガン(Mn)に置き換えた鉱物が桐生石になります。
もう一つの石英脈から発見された新鉱物は、白色から黄色の六角板状結晶または球状集合として産出し、群馬県にちなんで群馬石と命名されました。理想化学組成は(Na2Sr)Sr2Al10(PO4)4F14(OH)12で、結晶構造は三方晶系の対称性を持ちます。群馬石は既存鉱物の元素置換体ではなく、相当する合成物も知られていないため、予見もできない鉱物(物質)でしたが、電子顕微鏡による分析や単結晶X線回折を駆使することで詳細を突き止めることに成功しました。
二つの新鉱物を生み出した石英脈は、近隣に貫入した花崗岩体による気成作用で生じた高温流体であり、当地に至るまでに取り込んだ成分が異なったことで、脈ごとに異なる新鉱物が生じたと考えられます。
本研究で参照した地質図はインターネット上で誰でも閲覧できます(地質図Navi )が、記された情報を読み取る中で、研究チームの一人が違和感を覚えたことが新発見の契機でした。その後、研究チームの各々が得意分野で力を合わせたことで、このたびの新鉱物の発見につながりました。
参考:本成果の契機となった地図は、地質図Naviのこちら から、左メニューの「20万分の1地質図」左側の「+」をクリック、「宇都宮」で表示される。中央付近にMnに囲まれたWが確認できる。
発表論文
- 雑誌名: Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
- 論文タイトル: Kiryuite and gunmaite, two new minerals from Tsukubara, Kiryu City, Gunma Prefecture, Japan
- 著者: Daisuke Nishio-Hamane; Takeshi Yajima; Issei Ikari; Yoshiya Ohki; Hirofumi Hori; Yoshihiro Ohara
- DOI: 10.2465/jmps.230605
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