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櫻井 快 氏(木村研M2)が日本放射光学会の学生発表賞、精密工学会のベストプレゼンテーション賞を受賞

木村研究室M2の櫻井 快氏が、2023年1月7日から立命館大学びわこ・くさつキャンパスで行われた第36回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムにて、JSR2023学生発表賞を受賞しました。この賞は、同年会・シンポジウムにて、将来性・独創性のある優秀な発表を行った学生に授与されるものです。

受賞対象となった発表タイトルは「軟X線タイコグラフィを利用した細胞内化学状態イメージング技術の開発」です。

タイコグラフィ法は2010年代以降急速に研究が進展している顕微イメージング技術です。試料構造からのコヒーレントな回折パターンをもとに、コンピュータによる再構成計算を行うことで、試料の透過率だけでなく、位相のシフト量も定量的に検出できるため、様々な応用が展開されています。特に理想的な結像光学系を構築することが困難なX線の波長域での応用は著しく、これまでに微小な集積回路の内部三次元構造の可視化や、ナノ粒子中の化学状態のマッピングなどの成果が報告されています。こうしたタイコグラフィを軟X線の領域に展開することで、細胞などの有機物に多く含まれる炭素や窒素、酸素といった軽元素の分布とその化学状態を、高分解能でマッピングすることが可能になります。

本研究で櫻井氏は、Coherent Achromatic Rotational Reflective Optics for pTychography (略称:CARROT)と名付けた新たな軟X線用のタイコグラフィ装置を開発し、その有用性を哺乳類細胞の化学状態マッピングを行うことによって示しました。通常、軟X線領域ではゾーンプレートと呼ばれる、微細パターンを用いた照明光学系が主に用いられますが、ゾーンプレートでは利用する波長に応じた収差(色収差)が生じるため、化学状態を知るための吸収スペクトルを計測する上で、大きな困難がありました。今回開発したCARROTでは、照明光学系に独自開発の全反射X線ミラーを利用することにより、従来の色収差の問題を克服し、様々な元素に対応する吸収スペクトルを迅速かつ正確に計測できるようになりました。

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本研究では、その実証例としてチャイニーズハムスター卵巣がん由来細胞に対して、窒素および酸素の吸収スペクトル画像(ハイパースペクトル画像)を50 nm程度の高い空間分解能で取得できることを示しました。さらに、得られたハイパースペクトル画像を変分オートエンコーダを利用した機械学習により、細胞内での化学状態の違いを明らかにすることに成功しました。

本手法は従来の顕微手法では捉えることが困難な細胞内構造の同定のほか、細胞中の薬剤分布や代謝反応の計測などへ活用が期待されます。

本研究に関連して、軟X線タイコグラフィ装置、および細胞計測用ホルダの開発について、2022年度精密工学会春季大会学術講演会にて発表を行い、新規性のある優れた研究発表をした者に贈られるベストプレゼンテーション賞、発表タイトル「ウォルターミラーを利用した軟X線タイコグラフィ装置の開発と細胞解析の試み」を受賞しました。

関連論文

  • Takashi Kimura et al. Opt. Express, 30, 26220 (2022)

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(公開日: 2023年03月29日)