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柴田桂成(秋山研D3)氏、日本物理学会学生優秀発表賞を受賞

秋山研究室D3(発表当時)の柴田桂成氏が、日本物理学会第77回年次大会(領域12)において学生優秀発表賞を受賞しました。本賞は、物理学の発展に貢献する優秀な口頭発表を行った学生に授与されます。

受賞対象となった発表は「陰イオンチャネルロドプシンGtACR1におけるレチナール発色団の構造変化とフォトサイクル」です。本研究により、代表的な陰イオンチャネルロドプシンであるGtACR1のチャネル開状態におけるレチナールの構造が解明されました。さらに、レチナールの構造情報や過渡吸収分光、電気生理測定の結果をもとに、GtACR1のイオン輸送経路が世界で初めて明らかになりました。

チャネルロドプシンは光に応答する膜タンパク質であり、7本のαヘリックスとビタミンAの誘導体であるレチナールという色素分子から構成されます。レチナールが可視光を吸収すると、チャネルロドプシン全体の構造が変化します。構造変化によりタンパク質を貫くイオンの輸送経路が形成されることで、チャネルロドプシンはイオンを輸送するイオンチャネルとして機能します。そのためチャネルロドプシンは、神経細胞の活動を光で操作する光遺伝学の中心的なツールとして幅広く利用されています。特に、陽イオンを輸送するチャネルロドプシンは神経細胞を興奮させるために、陰イオンを輸送するチャネルロドプシンは神経細胞の興奮を抑制するために用いられています。そして、チャネルロドプシンのイオン輸送特性をさらに改良できれば、より広範囲にわたる脳神経細胞の活動制御が可能となり、記憶メカニズムの解明や脳神経疾患の治療法創出に繋がります。

イオン輸送特性を改良するためには、チャネルロドプシンのイオン輸送経路を解明する必要があります。そして、イオン輸送経路を解明するためには、チャネル開状態におけるタンパク質構造を明らかにすることが不可欠です。我々はこれまでに、代表的な陽イオンチャネルロドプシンであるC1C2において、チャネル開状態でレチナールが大きくねじれ、ねじれによってイオン輸送経路がレチナールを通過するように形成される、ということを明らかにしてきました。一方で、陰イオンチャネルロドプシンに関しては、チャネル開状態におけるレチナールの構造は明らかになっておらず、またイオン輸送経路も解明されていませんでした。

本研究により、GtACR1のイオン輸送経路もC1C2と同様に、レチナールを通過するように形成されることが明らかになりました。一方で、GtACR1のチャネル開状態におけるレチナールのねじれは小さく、C1C2とは異なるメカニズムでイオン輸送経路が形成されることも明らかになりました。

本研究により得られた知見は、チャネルロドプシンのイオン輸送特性を改良するうえで不可欠な情報です。したがって、本研究成果の意義は基礎科学的な面だけでなく、イオン輸送特性改良への基盤を与えたという、応用科学的な面にもあります。今後、本研究成果をもとに改良型チャネルロドプシンが開発されることで、脳神経科学や医学のさらなる発展が見込まれます。

本研究は東京大学物性研究所秋山研究室と井上研究室、そして総合文化研究科先進科学研究機構加藤研究室と共同で行われました。

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(公開日: 2022年06月22日)