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柴田桂成(秋山研D3)氏、日本生物物理学会学生発表賞を受賞

秋山研究室D3の柴田桂成氏が、第59回日本生物物理学会の学生発表賞を受賞しました。この賞は、生物物理学分野において卓越した研究を行い、日本生物物理学会年会において特に優れた口頭発表を行った学生に授与されるものです。

受賞対象となった発表は、”Structural Dynamics of the Retinal Chromophore in the Photo-Intermediate States of Channelrhodopsin C1C2″(チャネルロドプシンC1C2の光中間状態におけるレチナール発色団の構造ダイナミクス)です。

本研究では、少量の試料かつ短時間で、高い信号対ノイズ比のスペクトルを取得できる時間分解共鳴ラマン分光測定系を新たに開発し、代表的なチャネルロドプシンであるC1C2におけるレチナールの開状態構造を明らかにしました。またレチナールの構造情報や過渡吸収分光・電気生理測定の結果に基づき、C1C2のチャネル開閉機構やイオン輸送経路の位置、そしてチャネルが閉じる速さの決定機構を世界で初めて明らかにしました。

チャネルロドプシンは光応答する膜タンパク質の一種で、細胞膜を貫通する7本のαヘリックスとビタミンAの誘導体であるレチナールという色素から構成されます。レチナールが可視光を吸収するとチャネルロドプシン全体の構造が変化し、細胞膜を貫くイオンの輸送経路が形成されることで、チャネルロドプシンはナトリウムイオンなどを輸送するイオンチャネルとして機能します。そのためチャネルロドプシンは、神経細胞の活動を光で操作する光遺伝学(オプトジェネティクス)の中心的なツールとして幅広く利用されています。そして、チャネルロドプシンのイオン輸送特性をさらに改良できれば、より広範囲にわたる脳神経細胞の活動制御が可能となり、脳神経科学や医学の更なる発展が期待されています。

改良型チャネルロドプシンの開発には、イオン輸送経路がどのように形成されるのか、というチャネル開閉機構の解明が不可欠です。そしてチャネル開閉機構の解明には、チャネル開閉に重要な役割を果たすと考えられている、レチナールの開状態における構造を明らかにする必要があります。しかし、レチナールの構造測定には長い測定時間と大量の試料を要します。チャネルロドプシンは不安定であるため短時間で試料が壊れてしまうこと、また試料の大量作製が困難であることから、チャネルロドプシンにおけるレチナールの開状態構造はこれまで報告されていませんでした。

本研究で開発した測定系によって短時間かつ少量の試料でレチナールの構造測定が可能となり、C1C2におけるレチナールの開状態構造やチャネル開閉機構をはじめとしたイオン輸送の微視的機構が解明されました。本研究により得られた知見は、改良型チャネルロドプシンを開発するうえで不可欠な情報です。従って、本研究成果の意義は基礎科学的な面にとどまらず、イオン輸送特性改良への指針を与えたという、応用科学的な面にもあります。今後、本研究成果を基に改良型チャネルロドプシンが開発されることで、我々の脳における記憶メカニズムの解明や脳神経疾患の治療法創出に繋がると期待されます。

当研究は東京大学物性研究所秋山研究室と井上研究室、そして理学系研究科生物科学専攻濡木研究室との共同研究として行われました。

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(公開日: 2022年02月02日)