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熱力学第二法則よりも強い、エントロピー生成に対する不等式

日程 : 2019年1月24日(木) 4:00 pm - 5:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 白石 直人 氏 所属 : 慶應義塾大学理工学部物理学科 世話人 : 加藤 岳生, 阪野 塁講演言語 : 日本語

熱力学的不可逆性の度合いを特徴づける量としてエントロピー生成がある。熱力学第二法則は、一般の過程においてエントロピー生成が非負であることを主張する。だがもし考察対象の過程を、有限速度の操作や緩和過程など準静的過程以外のものに限定した場合、エントロピー生成は第二法則よりも強い不等式で制限されるはずだと期待される。第二法則よりも強い不等式の解明は、どのような性質が不可逆性を大きくするのかを明らかにするものであり、熱力学的不可逆性の本質を理解する上で欠かせないものである。

本セミナーでは、近年の非平衡統計力学の知見を活用して、「有限速度の操作」と「緩和過程」の二つの不可逆過程に対し、第二法則よりも強い不等式の導出を行う。有限速度の操作に対して得られた不等式は、操作速度によってエントロピー生成とアクティビティ(ダイナミクスの時間スケールを決める量)の積が下から押さえられることを主張する[1]。この結果は、エントロピー生成に対し、操作速度を用いた「第二法則よりも強いバウンド」の存在を主張している。より一般の設定では、エントロピー生成の代わりにHatano-Sasaエントロピー生成を用いた同様の不等式が成り立つ。これらの結果は、「操作の素早さ」がどのような熱力学的制約をもたらすのかを、物理的意味が明快な形で示したものである。なお、ここで得られた結果は、熱機関のパワーと効率のトレードオフ不等式[2]と同一の着想に基づいたものであり、実際その導出過程もほとんど同じ手法に基づいて行えるため、その比較も簡単に行いたい。

コントロールパラメータが時間変化しないような緩和過程に対しても、エントロピー生成に対する第二法則よりも強い不等式を得ることに成功した[3]。この不等式は、エントロピー生成という「過程全てに依存した量」が、最初と最後の状態の情報だけで押さえられるという、極めて分かりやすい形をしている。この不等式は、簡単な変形で情報幾何的な意味付けを与えることも出来る。この不等式の背景には、エントロピー生成に対する新たな特徴づけである変分原理型の表示がある。この変分を緩和過程に適用することで、不等式は導かれている。これらの結果の意味についても簡単に議論する。

[1] N. Shiraishi, K. Funo, and K. Saito,
“Speed Limit for Classical Stochastic Processes”, Phys. Rev. Lett. 121, 070601 (2018).

[2] N. Shiraishi, K. Saito, and H. Tasaki,
“Universal Trade-Off Relation between Power and Efficiency for Heat Engines”, Phys. Rev.
Lett. 117, 190601 (2016).

[3] N. Shiraishi and K. Saito, in preparation.


(公開日: 2019年01月10日)