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中性子散乱と磁性研究 —これまでとこれから—

日程 : 2025年5月29日(木) 1:30 pm - 2:30 pm 場所 : 物性研究所本館6階 大講義室(A632) 講師 : 佐藤 卓 所属 : 東京大学 物性研究所 附属中性子科学研究施設 世話人 : 橋坂 昌幸・川畑 幸平講演言語 : 日本語

1949年のネール磁気秩序の実験的確認に象徴されるように、中性子磁気散乱は磁性体中のミクロな情報を精緻に抽出可能な極めて有力な手法であり、現在に至るまで磁性研究の中心的実験手法の一つとして位置づけられている。逆に、中性子散乱の研究の側から見ても、磁性研究は中性子散乱の最大の特徴である磁気散乱能を活用できる分野として、長らく中心的な存在である。本講演では、中性子を用いた磁性研究への我々の貢献の例として、準結晶磁性体および関連する近似結晶磁性体における磁気秩序の研究について、初期の取り組みとの関連性にも触れながら、最近の成果を紹介する。
他方、核分裂(原子炉)や核破砕(加速器)により得られる中性子源に関しては、原理的な制約によりその強度の大幅な増強が困難であるという課題がある。このため、中性子散乱法の更なる発展には検出技術を中心とした測定技術の高度化が不可欠である。近年完成した J-PARC MLF では、中性子発生の時間構造を用いる、いわゆる飛行時間計測法が大きな進展を遂げ、これが中性子散乱に質的な変革をもたらしたことは記憶に新しい。原子炉中性子源においても、より効率的な中性子検出による高効率中性子散乱測定の実現が急務となっている。このような背景から、近年我々が重点的に取り組んでいる大型湾曲2次元位置敏感型中性子検出器の開発、およびそれを用いた中性子回折装置の現状についても紹介する。
さて、これら比較的「古典的」ともいえる中性子磁気散乱測定とは異なる、新しいタイプの中性子磁気測定が近年著しい進展を遂げている。具体的には、小角散乱を用いたトポロジカル磁気テクスチャーの観測や、高波数分解能測定による非相反マグノン分散の検出等が挙げられる。本講演では、これら新しいアプローチにおける我々のグループの貢献についても言及したい。
最後に、時間が許せば中性子散乱研究の今後の展望についても触れたい。


(公開日: 2025年04月04日)