ガラスに関連する分野の最先端研究
e-mail: statsumi@kit.ac.jp講演言語 : 英語と日本語
◼︎研究会趣旨◼︎
ガラス転移温度(Tg)で非晶質な構造を保ったまま流動性を失いガラス状態へと遷移するガラス転移は様々な物質系に遍在している.応用面でも,長期に安定な記憶媒体,吸収されやすい薬剤の開発,低温での生体物質の保護機構の解明などガラス状態が関係する現象は多岐にわたっており,ガラス状態およびガラス転移の機構の解明は,現代社会をより豊かにする上で欠かせない要素である.
このガラスを理解するにあたり,魅力であると同時に,その研究を難しくしているのは,緩和時間がガラス転移温度(Tg)に近づく際に発散的に増大することであろう。この長大な緩和時間を回避する手法として,実験的には真空物理蒸着法を用いて高密度の超安定ガラスを作成する方法、理論的には過冷却状態にある液体中の粒子を仮想的に不動化(ピン)するランダムピニングという手法を用いて実効的なガラス転移温度を引き上げる方法,数値計算の観点からは,スワップモンテカルロと呼ばれる平衡化を加速する手法や,機械学習を用いて安定構造を探る試みも注目を集めている.その他,微視的な物理量をターゲットに,液体状態から冷却してTgに近づくと明確になる静的・動的な不均一性を構造解析や誘電緩和,NMR測定により検出することを目指す試みも依然として活発である.
関連分野として,アクティブマター,生体内流動,蛋白質、粉体、スピングラス、電荷ガラスのような遅いダイナミクスを持つ系の性質をガラス研究の知見を援用して理解しようという試みも近年では増加している.ガラス自身の物性も、ボゾンピークのような問題に加え、エイジングや結晶化も再注目されている。
こうした状況において、ガラスに関わる実験、理論、数値計算の研究者、さらには、アクティブマター,蛋白質、粉体、固体物理(スピン・電荷のガラス)などの周辺分野の研究者が一同に会し、将来の研究の方向について議論することは有意義である。物性研は20年以上にわたりガラス分野の研究会を主催してきている。本研究会では,これまでの参加者に加え,周辺分野を含め将来に向けて積極的な交流を図る場としたい.
◼︎世話人◼︎
辰巳 創一(京都工芸繊維大学)、古府 麻衣子(日本原子力研究開発機構)、山室 修(東京大学物性研)、池田 昌司(東京大学大学院総合文化研究科)、齋藤 真器名(東北大学理学研究科)、川﨑 猛史(名古屋大学大学院理学研究科)、秋葉 宙(東京大学物性研)