先端構造物性研究-物理と化学の狭間で-
e-mail: danwakai@issp.u-tokyo.ac.jp講演言語 : 日本語
現代社会におけるテクノロジーの多くは、多様な機能をもつ基礎材料に支えられている。持続可能な社会の発展を支えるには、物質の機能のより効率的な利用や新機能の創出が必要である。こうした社会的要請に対して、我々は物質の構造や機能を量子力学的に理解すること、さらに新しい機能性物質のデザインを提案することを目標に研究を行っている。この「構造物性」研究は化学と物理学の狭間を扱っており、そのアプローチの違いは実空間か波数空間かの差異である。例えば、銅酸化物高温超伝導体の発見の際にはブロック層の探索という実空間の視点が多くの新物質を生み出し、この知見がその後発見された鉄系超伝導体の探索にも大いに活用された。実際、結晶構造を組み立てることで超伝導の転移温度を自在に操れそうに期待させる実空間研究スタイルは実に夢溢れる。一方で、ミクロな物性の発現機構に興味を抱くと必然的に波数空間・エネルギー空間を扱うことになるが、構造物性研究においては手薄であった。我々は、放射光回折実験を極め、匠の技を用いた価電子密度分布解析を実現した。実験的に得られる実空間情報をどのように活かすのか、第一原理計算との比較・検討がどのように物性の理解へと導くかについて問題提起したい。
【講師紹介】
澤教授は、長年構造物性研究の分野で第一線級の活躍をされております。1989年に青山学院大学の助手に着任し様々な超伝導体の構造決定に尽力され、1991年に物性研究所の助手に着任後は分子性導体の研究を強力に推進されました。1996年に千葉大学の助教授、2001年に高エネルギー加速器研究機構の助教授、同教授を経て、2008年に名古屋大学に教授として着任されています。物性研究所以降のキャリアでは、放射光を用いた研究を継続的に発展させており、特に最近では精緻な価電子密度分布解析を実現されています。今回、結晶構造という最も基本的な情報を、どのようにして精緻な物性の議論に繋げるのかの技術も含めて談話会でご講演いただけることになりました。化学から物理に至る物性研の多くの研究者および学生にとって非常に有用であると思われます。皆様、是非ご参加下さい。