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高分解能レーザー励起光電子顕微鏡を使った物性研究

日程 : 2024年6月13日(木) 4:00 pm - 5:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 谷内 敏之 所属 : 東京大学 マテリアルイノベーション研究センター ・新領域創成科学研究科 世話人 : 岡﨑 浩三 (63355)
e-mail: okazaki@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

光電子顕微鏡(PEEM)は一般的な電子顕微鏡とは異なり、励起源として光を利用することにより、物性の情報を直接可視化できる顕微手法であり、非破壊・電子状態に敏感なコントラスト・適度な検出深さ・高いスループットといった特長を持っている。特に光源の波長と偏光性を制御することで物質中の元素・価数・原子/分子配向・キャリア濃度・電子スピンといった様々な電子状態の可視化が可能な強力なツールとして基礎研究での顕微手法として利用されている。しかしながらPEEMは空間分解能が最高で10 nm程度、通常は20 nmと他の電子顕微鏡と比較しかなり劣っていた。講演者は、PEEMの分解能を制限している主な要素は電子レンズ系の球面収差・色収差、および放出した光電子の空間電荷効果であることを明らかにし、電子ミラー型の収差補正器と連続波の深紫外レーザーを組み合わせたシステム(レーザーPEEM)を建設した。またレーザー光源には光強度1017 photons/s、光子エネルギー4.66 eVのレーザーを用いることで世界最高となる空間分解能2.6 nmを達成した[1]。
本講演では装置開発に加え、レーザーPEEMを用いた応用研究例を紹介する。上述のレーザー光源では放出される光電子の運動エネルギーが非常に小さいため(閾値光電子)、光電子が物質中を伝搬する距離(平均自由行程)が大きくなる。これにより厚さ10 nm以上の材料の下に埋もれたナノ構造を高い分解能で可視化することも可能である。埋もれたナノ構造観察の実施例として、上部にキャップ層が堆積された磁性薄膜、および酸化物ヘテロ界面で特異に発現する界面強磁性相の磁気イメージング、また電子デバイス構造の非破壊観察を試みたのでその結果を紹介しつつ、レーザーPEEMの可能性について議論する。

[1] T. Taniuchi et al., Rev. Sci. Instrum. 86, 023701 (2015)
[2] T. Taniuchi et al., Nature Commun. 7, 11781 (2016)
[3] Y. Okuda, J. Kawakita, T. Taniuchi et al., Jpn. J. Appl. Phys. 59, SGGB02 (2020)


(公開日: 2024年06月04日)