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ヘリウムガスの再液化事業開始のお知らせ

東京大学 物性研究所

発表のポイント:

  • ヘリウムの入手困難・価格高騰により、学術研究に影響が出始めている
  • この状況の改善に向け、ヘリウムガスを学外から受け入れ再液化し、学外の学術機関への提供を開始する
  • 本事業は安定したヘリウム供給の実現に寄与することで、学術研究の支援、社会貢献を目的とする

発表概要

東京大学物性研究所は、2019年10月1日より「ヘリウムガスの再液化事業」を開始いたします。本事業は、ヘリウムの入手困難・価格高騰により困窮している研究者・学術機関の支援を目的としたもので、物性研究所の有するヘリウム液化装置の利用を学外にまで広げ、学外から回収されたヘリウムガスを再液化し、液体ヘリウムを提供するものです。

事業概要
  • 開 始 日:2019年10月1日
  • 所 在 地:東京大学物性研究所(千葉県柏市柏の葉5-1-5)
  • 代 表:東京大学物性研究所 所長 森 初果
  • 事業目的:液化装置の利用により、学術研究、社会貢献に供すること
  • 事業内容:学外から回収されたヘリウムガスを受け入れ、再液化、液体ヘリウムを提供する

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背景

ヘリウム(He)は、2番目に軽い元素で、4K(-269℃)で液体になる、非常に安定で他と反応しない、という特性をもっています。低温実験や超伝導磁石を用いた高磁場測定・化学分析などに使われる、基礎研究には必須のガスです。また、化学反応を全く起こさない安定性、かつ高い熱冷却性能といった他にない特性があるため、学術研究のみならず、半導体や光ファイバーなどの産業用途から医療用MRIまで幅広く利用されているガスです。

ヘリウムは日本国内の産出が無く、100%輸入に頼っている資源です。主な産出地は、米国、カタール、アルジェリアと限られており、日本は主に米国とカタールからの輸入に依存しています。ところが、米国土地管理局が保有するヘリウムの国外販売終了や、中東の情勢不安定により、日本国内へのヘリウム輸入量が大幅に減少しています。

他方、世界的な半導体産業の競争や医療用MRIの利用拡大から、世界中でヘリウム需要が高まっています。

これらの情勢から、国内でのヘリウム供給が逼迫し、学術機関への影響が出始めています。

物性研究所では、極低温の研究のため、1960年から低温技術を専門とするスタッフによる低温液化室を設置・運用しています。現在は、物性研究所内のみならず東京大学柏キャンパス内の研究室へ、年間30万Lを超える液体ヘリウムの供給・回収・再液化を行なっており、その回収率は平均90%以上となっています。

今回、物性研は、共同利用・共同研究拠点の重要な役割として、この状況改善のため、物性研究所の有するヘリウム液化装置の利用を学外にまで拡大することにしました。

事業内容

学外のヘリウムガスを物性研の液化装置によって精製・再液化、学外へ液体ヘリウムを提供します。

  • 学術機関、および学術機関にヘリウムを提供する機関を対象とする
  • 物性研に持ち込まれたヘリウムガス0.8㎥に対し、液体ヘリウム1Lを提供する
  • 最低持ち込み数量は、純度を加味して液化後に100Lとなるガス量以上とする
  • 輸送費用、液体ヘリウム容器、回収ガス容器等は、原則依頼機関の負担とする

本事業は、これまで学内のみの取り組みであった、ヘリウムの再液化を学外にまで拡大することで、逼迫するヘリウム状況を脱し、学術支援を目的とするものです。

ヘリウム困窮は、過去にもあり、また今後も予測されることから、海外情勢に左右されず、安定したヘリウム供給を実現するための第一歩です。液化装置は、全国の大学・研究機関に約40箇所あり、本事業のような取り組みが全国に広がることで、日本全体でヘリウムリサイクルが展開されることを期待しています。

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(公開日: 2019年10月01日)