廣井善二教授、松永隆佑准教授、和達大樹准教授、文部科学大臣表彰を受賞
東京大学物性研究所の廣井善二教授が平成30年度文部科学大臣表彰の科学技術賞を、松永隆佑准教授、和達大樹准教授が若手科学者賞を受賞しました。科学技術賞は、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者に、若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。

受賞対象となった研究は以下の通りです。
科学技術賞
- 廣井 善二 教授
- 新奇超伝導体および量子磁性体の物質探索に関する研究
- 松永 隆佑 准教授
- 高強度テラヘルツ波を用いた非平衡超伝導と集団励起の研究
- 和達 大樹 准教授
- 共鳴軟X線散乱による遷移金属酸化物の新しい秩序状態の研究
若手科学者賞



廣井教授は、固体化学と物性物理を融合させることにより、超伝導体や磁性体などの新奇な物質を発見し、物質科学研究を推進してきました。新しい超伝導体の発見は未知の超伝導機構解明に繋がりますが、理論と実験の双方による検証には、欠陥や乱雑さの少ない良質な結晶が不可欠です。同氏は、化学的な知見と経験を元に物質探索を行い、高圧合成手法を応用することにより複数の銅酸化物超伝導体を発見し、大きなインパクトを与えました。また、近年注目を集めているフラストレート量子磁性体においても物質探索を行い、高品質の結晶資料を合成して、スピン液体相やスピンネマティック相などの実験的検証を行っています。同士の開発した物質群は超伝導、量子磁性研究の学問分野に大きな貢献をしています。以上のように、新しい合成手法を確立し、固体化学の分野を広げるとともに、新規物質の発見、現象の観測によりこれらの研究を新たなフェーズに導いたことが高く評価されました。
- “Superconductivity at 1 K in Cd2Re2O7” Physical Review Letters, 87, 187001/1-4 (2001)
- ”One-Third Magnetization Plateau with a Preceding Novel Phase in Volborthite” Physical Review Letters, 114, 227202/1-5 (2015)

松永准教授は、高強度テラヘルツ(THz)パルス技術を活用して、超伝導秩序パラメーターの振幅の振動モード(ヒッグスモード)の存在を実証しました。近年THz波の発生技術が進展し、THz波を用いた低エネルギー非平衡物理の研究が活性化しています。同氏はフェムト秒パルスレーザーをベースとした高強度THzパルス技術を用いて超伝導の非平衡ダイナミクスを調べ、モノサイクルTHzパルスによってヒッグスモードを時間領域で観測することに初めて成功しました。また高強度狭帯域THz波を用いて、線形応答では光と相互作用しないヒッグスモードが非線形応答では光と共鳴して巨大な第三高調波を発生させることを発見しました。このヒッグスモードは「対称性の自発的な破れ」によって生じる、「固体中のヒッグス粒子」とも呼べる特殊な集団励起モードとして知られ近年注目されています。従来型超伝導体を舞台にして先端フォトニクス技術を活用することで、対称性の自発的な破れに関する普遍的な物理の解明に貢献しました。
- “Higgs Amplitude Mode in the BCS Superconductors Nb1-xTixN induced by Terahertz Pulse Excitation” Physical Review Letters, 111, 057002 (2013)
- “Light-induced collective pseudospin precession resonating with Higgs mode in a superconductor” Science, 345 1145-1149 (2014)

和達准教授は、共鳴軟X線散乱を用いて、マンガン酸化物薄膜における電気分極の起源や、基板歪みがスピン秩序に与える影響を解明したり、コバルト酸化物単結晶で「悪魔の階段」と呼ばれる3d スピン状態を直接観測、発見しました。超伝導や巨大磁気効果、マルチフェロイック性などの性質は電子の電荷、スピン、軌道の状態によって引き起こされる現象です。これを調べるには、中性子回折が有効ですが薄膜や小さな結晶では難しく、放射光X線回折による観測が主に行われてきました。同氏は、共鳴X線回折を独創的に発展させた「共鳴軟X線散乱」を開発、適用しました。そして薄膜や小さな結晶のような体積の小さい試料における、磁気構造の詳細を決定し、新しい秩序状態の解明に有効であることを示しました。これにより、電荷、スピン、軌道秩序といった物性物理学に新たなツールを与え、研究の進展に大きく貢献しました。
- “Origin of the Large Polarization in Multiferroic YMnO3 Thin Films Revealed by Soft- and Hard-X-Ray Diffraction” Physical Review Letters, 108, 047203, (2012)
- “Revealing orbital and magnetic phase transitions in Pr0.5Ca0.5MnO3 epitaxial thin films by resonant soft x-ray scattering” New Journal of Physics, 16, 033006, (2014)
- “Observation of a Devil’s Staircase in the Novel Spin-Valve System SrCo6O11” Physical Review Letters, 114 p 236403 (2015)
- ”A time-dependent order parameter for non-equilibrium phase transitions” Nature Materials, 13, 923~927, (2014)
- ”Photoinduced Demagnetization and Insulator-to-Metal Transition in Ferromagnetic Insulating BaFeO3 thin films, Physical Review Letters, 116, 256402, (2016)